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「…お邪魔しま~すぅ」 上司に言われて仕方なく入ってみた酒場は、既に盛り上がりまくっている雰囲気で。なんかあんまり席も空いてないみたいだしこのままだと相席になっちゃいそうだし、でも一人で飲んでたら絶対先輩に見つかると思うし……っていうか先輩と相席にされたら目も当てられないし飲むのやだし酒くさいしあー帰りたい。帰りたい帰りたい~ 「……おばちゃん何ぶつぶつ言ってるん?」 「おば……?」 「すみませんすみません!ほんま!悪気はないんです!!」 ……酒場にひどく不似合いな二人が、そこに居ましたぁ。 * 「混んでますし、帰りましょうよ坊ちゃん」 「嫌や~」 「坊ちゃん…」 「……ゆるいこの国でも、さすがにこの子供の年齢では飲んだりできないと思うしぃ、大丈夫だと思いますよぉ。さすがに店主さんが止めてくれると思いますしぃ」 流石にこのメイド服の女性がかわいそうだし、言わないとですよねぇ。 「……そうだと、ええんですけど」 「?」 赤い花びらのようなふわふわとした髪の中、憂鬱そうに彼女は俯きますぅ。 「これこれ!見いや~」 「あああああああ……」 店員さんにクソガキが見せ彼女に盛大な溜息とも慟哭ともつかない言葉を吐き出させたのは、何やら……真っ白なカードでしたぁ。 ホワイトカード、この国における許可証ですねぇ。 となると、あのクソガキは実はあれで15歳くらいだとか、相当高い身分かですよねぇ。言動からは年上らしさなどみじんも感じないので、やはりバカボンに対してうちの優柔不断な国王が許可出してしまったと考えた方がふつうなんでしょう~。 「……相席でもよろしいですか?」 「ああ、ええよ」 「あ~……ええんかなあええんかなあ」 メイドのお姉さん、なんといいますかぁ、がんばってくださぁい。個人的に嫌な上司に振り回されている者同士のちょっとした連帯感を抱きますぅ。 あ、嫌な上司ってのは勿論、うちのへタレ国王とツンギレ先輩どっちものことですぅ。 「すみませんが、相席よろしいですか?」 そう言って奥まで聞きにいってくれた店員さん。 「いいですよー!」 返ってきたのは、先輩の声。……居たあああ。居ましたぁぁあ。 ……見つけることは見つけたかったですけどぉ、身が竦みますぅ。 仕事中は確かに頼れる先輩なんですけどぉ、プライベートまでご一緒したくないんですよねぇあの鬼先輩とは。 でも、プライベート中の先輩の様子はちょっと気になってたりぃ。……先輩には珍しく、かなり気を許すご友人と一緒のようですしぃ。なんかすっごいご機嫌顔で、たぶんあれは私が近くに居ても気付きませんねぇ。 店員さんは遅れて私にも声をかけてくれましたぁ。 「すみません、あちらのお客様より先にいらしていましたよね?……どうされますか、あの近くに一つだけ相席があるのですが、もう少しお待ちいただければおひとり席やカウンターをご用意できますよ」 「……あぁ、ありがとうございますぅ。相席で結構なので、よろしくお願いしますね」 そう言うと、店員さんは「かしこまりました」と言って連れて行ってくれましたぁ。彼女の陰に隠れ、ちらりと先輩を見やりますと。……あぁ、本当に楽しそうな顔。私と居るときでは絶対に見せなそうなぁ…。はぁ。来たくなかったなぁ。 「お姉ちゃん、もしかしてあっちの男を見に来たの?」 「えっ」 突然声をかけてきたのは、相席の相手であろう女性。私より少し年上でしょうかぁ。 「べっ、…別に……」 「ああ、いいよいいよ、言わないから。……私も、似たようなものだしね」 そう言う彼女の目線の先には、先輩と談笑する……なんていうか、ものすごい美男。女装したらなんかすごく似合いそうな。薄緑の髪をさらりと揺らし、上品な顔を親しげに歪めている彼のその表情だけは、先輩のそれと似ていた。対する先輩は、妙にめかしこんでいて、日ごろの野生っぽさが少し抑え込まれていて。その口が、動く。 「……冒険に、一緒に行かないか」 ……あ、いけないいけない、報告するために、会話内容どっかにメモしなくちゃ、ですねぇ。頭の中でもいいですかねぇ。ていうか、もしかして、先輩が冒険に誘っている人、って。 「この国を出るとなると人数が足りないから、暫くは二人旅になるかもしれないが…」 ……なんかすっごい気持ち悪い顔してる先輩をぶん殴りたいですが、目の前の、どこかで見た彼もどことなく嬉しそうな顔をしてい、て。 「ん?おい、サルビア、お前確か召喚士の仲間居ったやろ?紹介してやれや」 「え、ええ、ちょっ坊ちゃん、今しーっですよしーっ!!」 「え、はい?」 「え…」 「お前確か北のエレス村の勇者やろ?一緒に冒険するんにちょうどええ仲間探しとるんやろ?大丈夫や、こいつと違うて召喚士の仲間は有能やしべっぴんさんやからなぁ」 「坊ちゃま……」 叱るべきか従うべきか迷っているメイドさん、いいことをしたと信じきっている顔の坊ちゃん、困っている勇者さん、何故か私の隣で「べっぴん」という言葉を聞いてゴゴゴゴゴと謎のオーラを出している女性、さて、先輩はどう出る、と身構える私、の前で。 「……よろしくお願いします」 がさつで傲慢な先輩は、坊ちゃんに頭を下げたのでした。 * ハチコ=プリンクについての報告書: 先輩がついに国を出て魔物を倒すことにしたみたいです~。 仲間は、北のエレス村の勇者、コルク=ヒールと、昔西の魔王に立ち向かったこともあるという召喚士、サラ=マンドレイク、あと一応先輩を観察する私、ナグモ=プリンクですが、よくわかんないけどコルクさんのストーカーの女性も後ろからついてきているみたいです~。こういう文書形式のだとぉ、その女性に見付かっちゃうかもしれないのでぇ、何か別の報告方法をください~。ちょっと値が張りますけど~、水晶玉とかどうでしょう~。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.06.12 21:31:21
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