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「……」
敵を目の前に、くるりと踵を返す。今襲えばきっと倒せるだろう。けれど。 「…襲わないの?」 「!?」 気付かれていたとは何たる失態。 * 目の前に居るのは、小さな女の子。黒い髪をお団子にして青い紐で結わえ、長い量の多いもみあげを垂らしている。 健康的な肌にはそばかすが散っていて、きつそうな眼はこちらを疑わしそうに見ている。 不審者に声を掛けられたみたいな、懐いていない子猫みたいな反応されるとちょっと傷付くなあ…まあ、いいか。 「……何…?そっちこそ。私、敵なんだからそっちこそ襲えばいいじゃない」 「…うーん、僕は君のこと襲う理由がないかな」 「……」 「本当だって。僕はむしろ君のこと、面白いと思ってるよ」 「…優男に言われるの腹立つわ」 「ええ…!?」 別に僕は自分のことを優男と思うつもりはない。爽やかとか人が好さそうとか言われるけど、実際のところそこまで性格は良くないし。でも、ここまでつんけんと接されるのも久々なのでなんだか新鮮だった。 人は大抵、あまりよく思っていない相手に対してもいい顔をするから。……僕を含めて。 「……私があなた達を襲っているのは偏に功名心だからね。恥ずかしい話だけど私、仲間内で地位が低いの。……あんたらをかっこいい倒し方して、認めさせてやりたいの。その為には各個撃破なんてちんけなことできない」 名も知らない少女は、生命力がとても強い。誰かに認められたいというオーラが彼女の体全体を包み込んでいる。……もっともそれが大きくなればなるほど、彼女自身はそれに包まれて小さく窒息させられそうになっているように見えるのだけれど。 「…ちんけ、ねえ……そこまで言われるとさすがにプライドが傷つくけど。……頑張り屋だね」 目の前に居る子は僕たちにとってはドッキリ屋もしくは嫌がらせ屋に過ぎなくて、苛立ちもするけれどそれでも単なる幼い娘で、このまま帰すのは惜しい気がしてしまって言葉を繋ぐ。 「……馬鹿にしないでくれる?当り前だから。私は魔族であんたは人間、それも平和ボケしてそうな面の。そんなんと一対一で戦って勝ったって言ったって自慢にならないんだってば。年だって……私は幼く見えるでしょうけど、同じ年なんだからね」 「同じ年!?……22?」 「そう。魔族の寿命は、大抵人の二倍。てっきり勇者とか呼ばれてるから知ってるもんだと思ってたけど」 「んー、僕達は北出身だからね…魔物とか人のごたごたを解決することが殆どで、魔族とはそんなにかかわったことないんだ。恥ずかしいことに」 話しているうちに、段々とこの子のリズムが掴めてきた。素直じゃなくて、誰かに甘えたくて、でも甘えたい相手には愛されなくて、でも愛されたい相手は誰でもいいわけじゃない。 寂しいんだろう、きっと。けれどとても不器用で、そしてずるい。 何もかも剥き出しでは愛されないことをきっとこの子だって分かっているだろうに、それでも愛してくれる誰かを探しているんだ。 「ねえ、君の名前を教えて?」 「……コグレ様って呼べば?」 「うん、そうする。コグレちゃん」 「ちょっと、何あんた勝手に変な呼び方してんの!」 「いいじゃん。コグレちゃんコグレちゃん」 「ちょっとやめっ、やめろよもう!!」 僕はきっと性格がよろしくない。だけど、勇者として振る舞わなくちゃいけない。 「…あんたって結構子供っぽいね」 「……僕は、人に思われてるみたいに優しくないし、結構黒い所あるんだよ」 「は?当り前でしょそんなの。黒い所なんて持ってて当然でしょうが、いい年なんだから」 「……ははっ!君になら僕、なんでも言えそう」 「あんたそれでも勇者?」 「うん、これでも勇者」 でも、なんだかいつか「勇者」じゃなくなる日が待ち遠しくなってしまった。 *** お人好し=優しいではないけれど、お人好しで居れば楽なことは沢山あって、けれどお人好しゆえの苦労も沢山ある。 幼い頃から「勇者」扱いされていることが若干しんどいけれど、それを振り払えない勇者コルクと 誰にも期待されていないけど、味方の為に頑張り続ける(しかし空回る)コグレ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.06.25 02:23:19
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