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「大好きだよあやこ」「大嫌いだよあやこ」
『なあ、そろそろ泣き止んでくれよ。そろそろお兄ちゃんも帰りたいんだけど』 その声が聞こえ始めたのは幼少の事。 何か行動をする度に誰かの声が聞こえた。 振り返るといつも誰かは口をつぐんでいる。 ある日、エスパーの本を読んだ。もしかして私の事なのかと思った。 けれど、この私のエスパー能力は自分に向いた言葉しか読めないようで、だから混乱した、私に対しては「好き」と心身ともに言ってくれる子が、私のような行動をしている子に対して、口で「嫌い」と言う、けれどその子の目の前では楽しげに笑っている。どっちなの? それでも私は自分に向いた言葉しか読めない。 だからそれに縋りつくしかない。けれどそれが間違っていたらどうなのだろう? 心の声も、唐突に「大好き」が「大嫌い」になることがある、 心の声と体の声が違うことがある、他の人に対しての態度もそのどちらかなのだろうけれどそれでもどちらか分からなくて不安でもういっそ私毎嫌って欲しかった。 心の声を閉ざしたかった。それでも閉ざせなかった。 ……私はいつも周囲の人間の言葉を受け取っていたから、逆に自分の言葉を作らないようにした。容量のために。 そうして好かれる為に作った「自分」は、別の誰かの所では嫌われた。 だから私は誰にも媚びないようにした。誰にも好かれないようにした。 誰から見ても「わけのわからないあやこ」「好きか嫌いかという以前に関わりたくないあやこ」であろうとした。 当然のように、みんなから「わけのわからない」また「大嫌いな」「あやこ」になった。 『はないちもんめ、まけぇてくやしいはないちもん、め』 体の声で、心の声が言えない事を言う。 心の声で言ってしまったら、辛すぎるから。 体の声は、誰の耳にも入らなければ『なかったこと』になるのだから。 そんな、寒い寒い数年を、一生続けると思っていた。 けれど。 『大丈夫』 「私は赦してあげよう」 唐突にその声が聞こえた。 白い、黄色い、水色な、薄緑の、桃色の、とにかく幸せな声。 『置いてかないよ』 「私だけはこの子を好きになろう」 私は自分を好いてくれるその声に縋り付いた。 「私は」 はじめて、自分から声を出した。 はじめての「あやこ」じゃない、私の声。 「『私は、あなたが大好きです』」 そう体の言うと、その声は笑った。 『ありがとう』 「そこは、「だけ」ってつけなくちゃ」 焦った。だって、この人には私以外も沢山の好く人が居る筈なんだから。 そんなこと恐れ多い。 『……私以外も、沢山!たくさん、●●ちゃんのこと好きだろうけど』 心を読んでいることがばれないように言った、その答えは。 『そんなことないよ』 「私「だけ」を好きでいるあやこが可愛いのよ」 ………唐突に、冷静になった。 『なあ、そろそろ泣き止んでくれよ。そろそろお兄ちゃんも帰りたいんだけど』 「面倒だな」「許すけどさあ」 『確かにそう言ったけど、俺との約束、学校では守らなくてもいいんだぜ?俺の事馬鹿にされたから喧嘩したって…馬鹿だなあ。俺と友達でいるのは放課後だけでいいよ』 「めんどくさいな」「好きだな」 相反する感情を皆持っていた。 だから私は余計に混乱した。 幼い脳味噌に、「好き」「嫌い」の愛だなんて分からないから。 けれど、ある程度世間にもまれ擦れた私が久方ぶりに沢山の「声」たちを思い出すと、 それらはみな、「好き」と「嫌い」の間の声はみな、私にとって理解共感できたり、したいと思うものたちだった。 とても人間臭かった。弱くて優しかった。 そうして振り返った●●ちゃんの姿は、あまりに眩しくて、あまりに―――――――…… 矛盾の無い、ひたすら真っ白に塗り潰されたもので。 「……●●ちゃん」 「どうしたの?」 『また不安がっているのかな』 それでも、その矛盾の無さが、矛盾の多い世の中で白であろうとする●●ちゃんの強さが、優しさが、歪さが、 彼女なりの「人間らしさ」なのかもしれなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.01.03 23:10:13
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