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長押 綴

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2012.11.27
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カテゴリ:.1次小
旅先。
帰り道、ちょっとした寄り道をしようとしたら見事に迷った。上る坂を間違えて、本来行くべき道の対岸になる山にたどり着いてしまっていた。
日が沈んで真っ暗な巨大な盆地は暗闇という水で満たされた湖のようになっていた。
その中でざざあ、と草原が鳴いた。
草原をふらふらと降りていく。斜面に建っている少し古びた家の青いトタンの隣には降りていけるようにブロックが埋められている。それが少しずつぼろぼろになっていく。
このままいけばどうなってしまうのだろう。狐に化かされているような気分で歩き続ける。

そこで立ち止まれたのは奇跡だった。
少し足を踏み外していたら崖のような斜面をずるりと滑り落ちていただろうから。
柔らかくなった枯草と少し泥濘のようになっている崖の端に子供のように震えた。
一人は気楽だと思った。こんな暗闇に飲み込まれても誰も心配などしない世界は、優しい不干渉だと思った。
そんな優しい世界の中、自分の喧しい鼓動だけが優しくなかった。
ああうるさいうるさいとその奥にあるものを握り潰すように薄い胸を掴む。
涙が目に膜を張る。その向こうにあるほのかな家の灯りは、少しだけ綺麗だった。

ぼろりと涙がこぼれると同時に、こびりついていた良心のようなものが剥がれて少しずつ自分自身の醜い姿があらわになってーーーーーー






ーそんな、夢を見た。



僕の記憶でも、脳の作り出した話でもない、と感覚が告げている。



これはきっと誰かの記憶。






人の心を読める僕は、たびたび近くに居る誰かに観応して夢を見てしまう。
これは誰の夢だろう。

こんなに優しくて寂しい記憶を、日々人道無視の研究をしている仲間たちが持っているだなんて思えないけれど。

持っているとしたら、研究所の良心と謳われる僕らの上司田中一郎くらいだろうか。

「どうした?」

何かというと目敏い彼を誤魔化すのは難しいが、いえいえ、と首を振れば疑問符を頭に浮かべながらも納得したふりをしてくれるから彼は優しい。

…こういう時に口を使えないのは便利だ。余計な事を話さなくて済む。



うちの上司はいわゆるマッドサイエンティストというやつで、その実験の対象は下手すると俺達助手にまで及ぶ。
僕は結局薬とやらの副作用で、異能が強まる代わりに口がきけなくなった。
口がきけなくなった分異能を強める回路に集中できたのかもしれないけど、それはまあいい。


問題は、こうしたもやもやとしたものを吐き出す場所がどこにもないということだった。

僕もいつか、あの場所に行ってみたら、そうしたら何かが吐き出せるようになるのかな。


夢の中で見た場所はあまりに綺麗で、見ている人の心情はあまりに複雑で内に籠っていて、一途で。
誰かを想っているようなのに、誰の事も想っていなかった。

目覚める一瞬前を思い返す。

その想いが妙にはじけたような気持ちに変わった時を。



何も言えなかったその人が、世界に向けて巨大な悪意と似た純粋な願いを抱いた瞬間を。

思い出すと同時に、もやもやとした気持ちがどこか性的な衝動の発散にも似たそれへと変化していくのを感じた。



いいなあ、いいなあ。


あの場所に、行きたいなあ。

本当の僕を見付けて欲しいなあ。
本当の願いを見付けたいなあ。


ーいいなあ。




to be continued...?





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最終更新日  2017.05.16 22:37:22
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