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「お粗末なものですが、私の城へようこそ」
目を開けた先には真っ暗闇。 「……誰だ」 不信警戒心をあらわにして尋ねると、温かみのある感情を感じさせない声が返ってくる。 「ここの主です。こんにちは」 ……問いかけてすぐに返る質問、別に拘束されてもいない体。 RPGでどこかの王様に招かれた勇者のようなそんな感覚さえ来る、あの襲撃の直後とは思えない穏やかさ。 それでも真っ暗なままの世界に不安が募る。 「こんにちは。……一応訊くが、お前はもしかして俺をここに拉致ったのか」 誘拐したらまず何かの感覚を奪うという犯罪者の話が頭を過る。 不安にさせ、何かを過剰に妄想させ、支配するための手立てにするのだと。 「拉致とは人聞きが悪いですね。居心地の悪そうなあなたをここに招待して差し上げただけですよ」 「余計なお世話だ」 確かに仲間内では俺だけペアが居なかったけどほっとけ馬鹿野郎。 今ので一気に不機嫌になった俺を宥めるように声が続く。 「……というか、私とあなたは実は以前お会いしたことがあるので、あのような所にいるくらいならば、私とまたお話して欲しいと思いましてね。少しやりすぎてしまったかもしれませんが」 「いや、そういうレベルじゃねえから。っつーかお前が全部あの化け物を……!?」 まさか、俺のせいなのか。 いてもたっても居られず、そう叫ぶと声は反駁する。 「いえ、流石にあなたを手に入れる為に世界を滅ぼす程私はあなたを求めていませんよ」 「おい」 いちいちむかつくなこいつの言い方。一応仲間である佐藤と少し似ている気もするが、あいつよりは理性があるように感じる。あと、多分女だ、この声は。 「私が育てていたペットの一部が、暴走してしまいましてね。ご迷惑をおかけしました。あなたを見掛けて少しあの子を抑える手が緩んでしまったのですよ。でもあなたを回収したいと思ってブレーキが遅れ、あなたのくず肉を集めて更に制するのが遅れてしまったから、あなたのせいとも言えるかもしれませんね」 「……っ」 せいって、何だ。 ……しかし、ある意味こいつに俺は助けられたの……かもしれない。 いや、でもこいつがちゃんとあの怪物を抑え込んでいればそもそも…… 「……謝らねーぞ。お前にも世界にも」 「当然です」 断言する声は、その瞬間に世界への関心を失ったようで。 「で、田中さん。ものは相談ですが、私達の仲間になりませんか」 「いや、やだよ」 「即答ですか!?」 さっきから落ち着いていた声が途端に裏返った。どんだけ俺の了承を信じてたんだよ。 「つーか、お前誰なんだよ。悪いけど全然思い当たらない、そんな奴に、しかも世界をうっかり滅ぼしかねない奴にほいほい協力なんてできない」 「あなたもあれを抑え込むなどに協力してください。力と言うのは使いどころが大事ですから、力を開放する時はどういう時がよいなどと言って下されば、意見も多少は受け容れます」 脅しか。 「ヒーローのつもりだったんだけどな。悪の組織の苦労人ポジションかよ、俺は」 「……です」 「は?」 早口で聞き取れなかった。 「悪の組織ではありません。私達がこれから神様になればいいのです」 うわあ。 顔がいびつに歪む。何だこいつ、ヤバい奴か。 ヤバい奴からは取り敢えず距離を取れと言う幼い頃身に沁みついた感覚と、最近の無双で身に着いた取り敢えず戦えと言う気持ちが衝突して、何とも言えない反応しかできない。 ……いや、でも。 考え直す。 それも、考えようによっては、ありか。 俺はある程度我慢ができるし、比較的常識人でもあるつもりだ。 こいつの暴走を抑え込むことが、もしかしたら罪のない一般人を守る事にも繋がるかもしれない。 俺は俺で、新しい方向から世界を守ってみるか。 他の田中達にこれまでの存在意義を全て託すと言うのも、悪くない。 「……で、カミサマとやら。お前はいつまで姿を隠してるんだ?そんなんじゃ協力しようにもできねえぞ」 「?私は、あなたの目の前に居ますが……」 ……え? 「……目隠ししてんのか、俺に」 「いえ」 「お前は真っ黒な姿をしているのか」 「真っ白ですよ?」 もしか、して。 恐る恐る、目に触れる。 痛い。感覚はある。つるり、あるいはぬるりとした眼球の感触が一瞬走った。 それでも、何も見えない。 「嘘だろ」 指が見える筈なのだ。両手を挙げ、額眉瞼と伝って眼球へ。 「……悪い、ちょっと俺の目、抉ってくれねーか?声は上げないようにすっから。 多分毒にやられちまったんだ、一度これが取れたらすぐに回復……」 「それは、いいことをききました」 は? 「では、これからあなたは危ないですから、一つの部屋に住んでもらいましょう。ご心配なく、食事などは私が運びます。部屋の中にトイレに続く扉もありますし、何かお困りでしたら教えて下さい」 途端に優しくなるカミサマ。いや、でも、待て。待てよ。 「まっ……」 がしりと突然手を掴まれ、肩が跳ねる。 「すみませんが、刃物は上げられません。あなたが自分で目を抉ってしまったり、自殺してしまっては困りますから。」 「な……」 どんどん話を進め、また同時にどこかへ引っ張っていくそいつに恐怖感が募る。 妙に柔らかい手。女の手にしても少し柔らか過ぎる、ような。 「ここに居て下さいね」 突然空に放り出され、目は見えないのに目が回るような感覚。 「後でまた来ますから」 ぽふ、と柔らかな、けれどカミサマの手とは違って乾いた感触とともに扉が閉まる音。 俺は、それをただただ呆然と訊いていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.07.24 00:22:46
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