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ぶ、ぶぶ、と。窓の外から音が聞こえる。
「ついてないな。こんな時にあれに遭遇してしまうなんて」 いつからか日本にも訪れた、あれ。 「科学がいくら発達しても、世界情勢が変わっても、変わらないものはあるんだね」 「くそ、どうせなら世界の研究バカ共もああいうのなくしてくれりゃよかったのに」 争いだのなんだの下らねえ、人間同士のことにかまけてる暇ありゃとぼそぼそ呟いている突っ込みの隣には、がたがた震える何かの塊。 「やだもう……」 大きな塊は、高橋先生だった。彼女はこれが物凄く苦手なようで、数日前からずっとうずくまって震えているのをリーダーの田中が気遣っている。 それ。 俺達が生まれる前からずっと続く、梅雨。 そしてそれに新たに加わった要素。 虫の百鬼夜行。 雨に叩き落されながらも、あちこちの軒下に奴らは集う。蒸れる場所には群れる奴ら。 羽虫に甲虫に柔らかい虫にさらに柔らかいそいつらの幼虫。 光がついているとそれにおびき寄せられるやつらは、光の住人達をまたたくまに喰らいつくす。 それは俺達のような半分不死身でさえも例外でなく。 「お日様、長く見てないな」 「仕方ないよ。毎年これだもん」 たまに晴れると、ぶわっと虫がそっちに吸い上げられていくからかすかに明るいほうは分かるものの毎日が曇り空のようなものだ。 木鈴の年を考えると、きっと彼女は物心ついてからろくな初夏を過ごしていないのではないか。 「そろそろ七夕なのにな。勿体ないな」 『う゛ぉー―――――……』 外から異様な声が聞こえる。 『蟲』の声だ。 べちゃり、べちゃりと湿った音。 「ひっ」 「大丈夫ですよ先生、何もしなければ通り過ぎていきます」 「そっ、そうだが……」 恐怖からか、ひそひそした声で喋りだす二人。 「悪い、おしゃべりは中止だ」 「え」 臭ってくる強烈な悪臭。 世界に捨てられたものたちの最盛期。 みなに、あらかじめ用意していた布を手渡す。年々強くなってくるその臭いは、それを無視している俺達を煽るかのように近付いてくる。 「見るな、嗅ぐな、聞くな、忘れろ」 特にこの臭いが苦手なワタはこの時期、ずっと甕の中に閉じ籠っている。 醜いものには蓋をしなくてはというが、この時期は…… 俺達が逆に蓋をされているような気分だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.07.24 01:18:33
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