|
カテゴリ:.1次小
どうすればいいのか分かりません。と、彼は言う。
手伝いたくても手伝えない。助けたくても助けられないのです。 私が背負えば済む話、私が代わりにやれば済む話、それでも見守らなければならない。 友達が大変そうにしていても、私がかかわる領域じゃないのなら、 何かしたくても出来なくて、見ているしか話を聞くしかできない。 一体どうすればいいのか。 「オレにしたみたいに閉じ込めりゃいいだろ」 「それは、できないのです。私は祟り神ですから、憎む相手以外には何もできないのです」 ……ただ借金まみれで神頼みのお賽銭泥棒やらかそうとしたらこのざまだ。 神様に社ん中に監禁されてひたすらに愚痴を聞かされている。 答えの出ない問い、終わりのない鬱憤。 神様の鬱屈した話は続く。 「私は人を呪ってばかりでした。 私を祀る人もそれを利用しようとする人か、怯えて近づきたがらない人ばかり。 …それを一時的にでも止めさせてくれたあの子を助けたいのに、助けられない。 あまり人を励ましたことがないから、元気づける方法が分からないのです。 敵なら消してあげると言ったら泣かれました。 私のすることは全ておせっかいになってしまいそうだし、何も言えなくなってしまう。」 「失敗してもやり直せばいいんじゃねーの?」 「でも取り返しのつかない状況の場合本当にどうしていいか分からないのですよ。 かといって、あの子の周りの大人たちに聞いてみるのが、無暗に言いふらしているというのと 似てしまいはしないかと思いますが……分かりません。 どうしてあの子は、自分を殴る親を、自分を殺しかねない親を、庇うのですか」 「……」 オレの境遇が頭を過る。そんな親を刺して逃げて、今の事務所に所属した時の記憶。 結局そこで親のように慕った人も結局オレに全てひっかぶせてある問題を終わりにしやがった。 「……親ってのは、そういうもんだと諦めてるからだよ。 お前の親はどうだったんだ?神様にだって親は居るだろ」 「……私は、親兄弟に殺されました。政権争いで。私は…私は、野望なんてなかったのに。そんな私が、全ての罪をかぶせられて…っ」 「うわひっでー」 「随分と軽い口調ですね……まあ、いいのですよ。死後祟り神として蘇り、皆殺しにしましたから。…あの人たちは、変わらなかった。変われない人達だったから、殺すしかありませんでした。」 「…ずっと被害者で居たいんだな、お前は」 「被害者ですよ」 「じゃあ、あの子の理解はできねえだろうな」 「……当たり前の権利を貰っていないあの子が、被害者以外の何だと言うのですか」 「…別に」 オレも、こいつも、人を僻んで、恨んで、それを杖にして、縋って生きていく事しかできない。 だから性善説で生きているような、祟り神の語る少女は眩しくて、羨ましくて、やはりオレからすると少し妬ましかった。 オレたちと、綺麗な道を歩く奴らはどこが違うんだろう。 オレたちに欠けているものがあるのなら、それはどこに置いてきてしまったんだろう。 オレたちは、足りないからと補えるほどの優しさも、繋がる力も、美しさもない。 無力だ。 だから、せめて汚い奴らの足を引っ張ることくらいしかできない。 惨めでどうしようもない。 そんなの、人に言われるまでもなく分かっている。 「……だったら、どうして人と接するんだよ」 「どうして、人に言葉を吐くんだ。人に言葉を貰おうとするんだ。 結局自己満足の為で、他人なんて必要としていないくせに」 動けない癖に、どうしてオレ達は予想外の救いを求める。 「……そんなの、分かりませんよ」 憎むことは自己満足で、一方的な決めつけで出来る事だ。 赦すことは優しい事に見えてそれに甘える奴をどんどん駄目にしていく事だ。 前へ進めば殴られて、後ろへ逃げれば引きずり出されて、どうしようもなく疲れ切っていて、全てを喪わされてから、憎んで生きることしかできなくなっている。 本当はこんな自分が好きじゃない。 本当はもっと綺麗に世界を生きたいのに。 誰か、ここから連れ出してくれ。 それがかなわないのならーーーーーーーー 「なあ、お前がここに引きずり込んだのはオレが最初か」 「罰当たりなことをするのは貴方だけではありませんでしたが…そうですね、生かして取っておいているのは貴方だけですね」 「うっわこっわ」 「殺されたいのですか?」 「…じゃ、オレたちと同じようにどうしようもない人間を憎んで、ここに引きずり込むことはできるか」 「貴方、何をさせたいのです」 「あの子に綺麗な世界を残したいだろ?」 あの子ならきっと、世界の最後の一人になっても、綺麗な世界を作る。 ーーーーーだから、せめて、オレたちがその綺麗な世界の一端を担えるように。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.06.30 10:48:50
コメント(0) | コメントを書く
[.1次小] カテゴリの最新記事
|