1451037 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

Laub🍃

Laub🍃

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

フリーページ

カテゴリ

プロフィール

長押 綴

長押 綴

カレンダー

2014.08.13
XML
カテゴリ:🔗少プリ





幻憩








僕はひたすら歩いていた。
長い長い道だったがさほど辛くはなかった。
それはおそらく、足元は道路ほどとは言わないまでも整備されていて、
隣には話の盛り上がる友人が居たからだろう。


けれどその行き着く先は僕の行ったことのない場所。
歩けば歩くほどいつも暮らしている場所から遠ざかることに少しずつ焦りのような感情が湧いてくる。
何か、何故かは解らないが胸騒ぎがする。
それは恐らく友人の案内先への期待だけではないものだろう。


「直ちゃん、ここやで」

「・・・・・・」



隣のヨンイルの存在を一瞬忘れる。

目の前には巨大な朱塗りの屋敷。

その豪華な様子に、まるで物語に出てきそうな形に、圧迫感に、
人が把握しきれないほどに大きな大きなその御殿に
何か、何だとは特定できないものの途轍もなく嫌な予感がする。




「・・・・・・」

ずり、と後ずさると、ヨンイルが手を掴む。


「・・・離せ」
「何で逃げるん?うちにあるたっくさんの漫画見せたいだけやのに」


ああ、そうか、漫画か、そうだそれならいいか、とふらりと足を踏み出したくなるーだが。


「駄目だ!」


突然響く声。


ヨンイルがちっと舌打ちをする、ぞくりと背筋が震える。

目をやった先には侍のような風体の男。


・・・誰だ?


「逃げろ!」

「・・・っ」


戸惑っていると命令口調でそう言われ、反発心が僅かにもたげる。
だが、それに抗っている暇はない。屋敷の奥からのそりと大きな影が出てきたからだ。

片方はひょろりとした、けれど大きな黒い狸の面を被った男。
もう片方は狼と狐を足したような面を被った巨大な筋骨隆々の男。



まずい。


何がまずいのかさっぱりわからないがとにかくまずい。



屋敷の中に入ったらもう二度と出られ無そうな。
そして今、力づくでも屋敷の中に入れられてしまいそうな。


走り出す。



「ー今日は遠慮しておく。
 この羽織らせてくれた上着はここにかけておく」
「あ、ちょっと直ちゃ」


上着。白と橙の流水模様のそれを道の真中にあるついたてにかけて走り出す、
少し体が軽くなったような感覚。

そうだ、走れ走らなくては、早く早く、もっと早く!
何故とか理屈が追いつく間もなく、僕にしては珍しく考えようとしつつも行動する。

ヨンイルが僕の背中を追おうとする気配、だが侍に阻まれる。



動け動けと思うのに、幻惑された効果か水の中でもがくように距離はなかなか進まない。


走っていると目の前に、艶やかな黒髪と紅い紅襦袢を羽織った狐の面の人間を
横抱きにしている、何か警官だか軍人だか解らないがそんな制服を着た中年の男が現れる。
右をすり抜ける。狐の面の顔があるすぐ脇。

中年の男は完全に紅襦袢の中の人間に集中しているようで、
おぞましい笑みを浮かべていたがそれよりも寒気がしたのは
すれ違う時に聞こえた狐の面の奥から聞こえてくるくすくすという静かなけれど強烈な笑い声。

あああの男は喰われる。

やはりあの屋敷に入らないのは正解だったと、自分はそうはならないとよりいっそう足に力を込める。



後ろからヨンイルと侍の言い争う声、いやヨンイルが弁解する声が聞こえてくる。




「いや、お侍はん、これは違うんや。」
「何が違うというのだ」
「んーとなぁ・・・」



走れ走れ、足に意識を集中させるんだ。

そう思っても耳に声が纏わりつく。

それはいつのまにか僕が追い詰められるような声に変わっていて



「逃げられへんよ」

そういえばどうしてヨンイルと一緒に

「一つ目ーはじめの誘いに乗る。」

そうだ、確か僕が一人で藪を歩いていたところ声をかけられて

 「方角が一番大事なんや。今追っかけても無駄やで」

音が追いかけてくる。

「「本当は」どんな目に遭っとるか。これは対応した狐とどんな仲かにも拠るけど、死ぬまでこっから出られんのは皆一緒や」

随分前から何年も前から話していた気がするが思い返そうとすると頭が痛む

 「ここにあるんは本命の巣穴やない。北や。北に「口」がある」

話は楽しかった。楽しかったのだがそれとここにずっと居ることとは話が別だ

「二つ目ー気付いて逃げる。」

走らなくては何かに絡め取られたように足がうまく動かない思考が空回る

 「ぺろり」

恐怖と焦燥で押し潰されそうになる心を辞書を暗誦することで必死に押さえ込む

「逃げ場所なんてない。脇の山道は人には昇れん、もし昇ったとしても絶対に迷う。
 残るはこの真っ直ぐ伸びる道だけやけどー」





――行き止まり。

石と小さな砂利が埋めていた道に唐突に木の床が現れる。

その先には手すり。
こんなところに手すりなんてあっただろうか、
いや僕たちはそもそもどうやってここに来たんだ?

ー違う、僕がそれ以上に気になるのはー



後ろからざかざかと駆けて来る音で思考が途切れる。

ここで捕まってたまるものかと持ち前の意地が叫んで
欄干の端のようなそこに身を乗り出し、

思い切って飛び降りる。
風を感じる。


ー化け物に食べられるくらいなら、
  ここで死んだほうがー



けれど、


ぐんっと音がして、僕のその考えは実現しなかった。


足に何かが絡み付いているーこれはー笹?


もさりと手摺のすぐ外に生えた笹が黄色く枯れていて、
僕は絡まったそれに足を引っ掛けたのだと気付く。

助かった、けれど逃げようとすることは難しくなった。
足が抜けない、なのに上背後から聞こえてくる足音は石を叩く音から木を叩く音に変わる。

逃げろ逃げろ、-そう思っていると、ずるりと足が抜ける。ぞうりが落ちなくてよかった、落ちていたら下の砂利で存在がばれてしまう。

けれどこれからどうすればいいと悩む。真下には砂利、距離は3尺もないが飛び降りたが最後気付かれるのは必至。
しかし道路の真中にある石は小さい。そしてどうにかそこに降りたとしても最早意味がない、
考えている間にどんどん気配が近付いてくる。ここで飛び降りて逃げたとして、橋の上の何者かには確実に気付かれる、そしてそうすれば僕のこの足で逃げ切れる筈がない。

その途端閃く。橋の裏側の窪み、ここに体を滑り込ませるのだ。
笹で反動をつけ、足を伸ばし手を伸ばしなんとか入り込む。その際長く伸びた笹の一部は腕の中に抱いたままだ。ここから降りるときに役立つかもしれない。





一旦落ち着いた、落ち着いたはいいもののー一体いつまでこうしていればいい?


じっとしているにも限界がある、けれど動いたらばれるかもしれない。


上に居る者が狡猾な奴ならば、一旦去ったと見せかけて実はまだそこに居る可能性もある。




動けない。

----------------------------------------

と、いう所で目が覚めた。



ぜい、ぜい、と荒い呼吸を繰り返す僕に、丁度鍛錬から帰って来たらしいサムライが心配そうに近付いてくる。



「大丈夫か、悪い夢でも見たのか」
「…いや、平気だ」


夢か、-そうだ当たり前だ、何故あんな支離滅裂な夢を見たんだろうか。
恐らく昨夜ヨンイルの隣で手塚漫画のホラーものを読んだからだろう。この天才に文字と絵越しだというのにここまで影響を与える手塚治に改めて感服する。

鼓動が未だに煩い。煩わしくて抑えようとしていると、ふいにサムライの手が伸びてくる。
ぽんぽん、と背を撫でられる。

「・・・・・・僕は子供じゃないぞ」
「・・・!」


無意識でやってしまったというかのように、驚いたように自分の手を見詰めるサムライ。
全く、君は。


「直、…もう一度眠るか。まだ早い」
「今眠ったらもう一度起きるのが更に辛くなるだろう。却下だ。…心配するな、大丈夫だ」


それを聞いてわずかに安心したらしいサムライを前に、少し、ある考えが頭を過ぎる。



狐や狸は幻覚を作り出すのが得意。それを題材にした昔話ならば山ほどある。
では、今僕が見ているこれもー夢が覚めていると思うこれもーもしかして、幻覚なのではないか?

本当は僕はまだあの山奥の中に居て、目が覚めたという夢を見ているだけなのではないか?



・・・・・・下らない。

首を振る。

枕元の眼鏡に手を伸ばすが触れることができない。一瞬不安になる。


だが、次の瞬間こつんと硬質な感覚を指に得る。


大丈夫、大丈夫だ。

これは夢じゃない。幻覚じゃない。現実だ。

まだ頭がふわふわしているものの、足に触る感覚は手に触る感覚はいつものそれと同じー筈だ。
思い浮かべた途端に感じることに、僕の脳がその周りに何がしかが僕の目に見える物体以外の何かが
そう思わせているのではという余計な不安を無視する、考えても意味が無いというのに何故こうも考えてしまうのか。


眼鏡をかけて、先程からいつもながら無言のサムライを見る。

・・・・
いつもの顔になる一瞬前、あの道化のような笑みが見えた気がするのも――きっと、気のせいだろう。









----------------------------------------





と言う夢を見たんです。


電波っぽいヨン直(サム)でした。


狐のお宿について・・・

 紅襦袢(静流)に勧誘される→魂まで吸い尽くされる
 道化(ヨンイル)に勧誘される→静流とは違って別に吸い尽くされはしないけれど、矢張り帰してはもらえない。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2014.08.13 00:33:37
コメント(0) | コメントを書く
[🔗少プリ] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.