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カテゴリ:🔗少プリ
「食料がない」
そう呟いた鍵屋崎の手には、沢山の食い物の容器。 早めの昼食の時には確かにあったはずの中身は、現在見事なまでにすっからかんだ。 「俺じゃねーよ!」 そう叫ぶがその主張は真昼間の山奥でどこか空虚にこだまする。 とっさにレイジとヨンイルを見るが、当の二人までも俺ともう一人を疑ってかかってやがる。 くそ、兄弟の絆どこ行った。 ため息を一つ吐いた鍵屋崎が言う。 「……分かっている。今回少し目を離した時に食料がなくなってしまった。全部がとは言わないが、その量とその時間を論拠にすれば殆ど君達の仕業ではないと判断を下せる。猿か熊か…恐らく山に住む何がしかの動物の仕業と考えられる。ある意味見張り番を能率的に分担していなかった責任を問う事件でもある。 しかし、その見当がついたからと言って食料を他から調達出来るわけでもない。」 唸る鍵屋崎。 「もう帰るか」 「やだ!俺動物狩ってくるから!!」 「できんのか!?」 レイジが即座に言い返す、唐突に何を言ってるんだこいつは。 「おー、覚悟しとけよー」 本気かよ。そう思っているとヨンイルまでも名乗りを上げる。 「じゃあ俺も魚捕るわ」 「では僕は食べられそうな植物を探す」 「…俺も手伝おう」 全員本気か。 ……だが、キャンプはもともと明後日までの予定だ。 空腹に耐えて過ごすなんて勿体ないし、帰ってしまうなんてもっと勿体ない。 「俺も魚釣り行っていいか」 「え」 それよりは、と声を上げるとレイジが驚く。 そんなに変か? 「何だよ」 「ロン俺と一緒じゃねーの?」 それかよ。 「あー…何か嫌な予感するし」 「なんだよ、セクハラしねーよ」 「……」 「その目やめて」 ぶつくさ言いつつ、なんだかんだ後で楽しみにしとけよと言うレイジと分かれてはや3時間。 目の前にはさらさら流れる川。手元には空っぽのバケツ。 「…全然当たらへんなあ」 「ああ……場所変えるか?何回目か分かんねーけど」 「むしろ、捕り方変えるか。足突っ込んで熊みたくバシャーンバシャーンて獲るんや」 「…川に入っちゃいけねえって鍵屋崎言ってなかったか?」 「ちょっとくらいなら大丈夫やろ」 「あっ、おい…」 ヨンイルがまず試しにと入る。 「うおっ、冷たっ!」 と最初は言っていたものの、ばしゃばしゃ動き騒ぎ出す。 「お、魚捕るかどうかはともかくこれはこれで涼しくてええなぁ」 そう言っている姿を見ると、ごくりと喉が動く。 「……」 「お、ロンロンも入るか!深みに嵌らんように気ぃつけてなー」 「言われなくても大丈…」 ずるり。足元からそんな音が聞こえた気がして、 「え」 「あ」 水中。 二転三転、バッシャーンとでも擬音の漫画のように派手に盛大な水しぶきの内側はそれを味わう間もないほど切羽詰まっているものでじたばたとひっくり返された虫のようにあがく、なんとか頭を打つこともなく起き上がって水面から顔を出して咳き込む。緊張がはじけたせいだろうか、水面から顔を出した今もどくどくと鼓動が鳴り響いている。体に張り付く濡れた服の感触とさっきの衝撃で上がった体温とのじっとりとした組み合わせが気持ち悪い。 ヨンイルが心配そうに近寄ってくる。 「おい、大丈夫かロンロン」 「あ、ああ平気…」 ヨンイルの差し出した手を握ってよろよろと起き上がる。 「服びしょぬれになってしもたなあ、どうする戻るか?」 「いや、この暑さなら平気……あ」 服を見下し、あることに気付く。 サンダルが無い。 「…流された…!」 下流を見ると、どんどん細く早くなっていく流れの上ぷかぷかと浮くサンダル。 やばい、これ以上行くと取り戻せない。制止しようとするヨンイルの声なんて目に入らず、ざぶざぶと音を立て追いかける。 よし、あとちょっとー 浮遊感。 「ロン!」 やべえ。 さっき足が滑った時と重なって背筋がぞわっとする。 ふわっと足が浮いた次の瞬間サンダルを手に掴むがそれに安堵する暇もなく、自分も一緒に流されていることに気付く。 「わっぷ、う…」 「あかんあかんあかん、ロンロンあんま暴れると怪我するで!?パニックになったらあかん!あああでもどうしよどうしよ」 「お前の方がパニックじゃねー…がぼっ」 「そや、こないな時は直ちゃんから借りた本…えーとえーとえーとなんやっけなんやっけあ、足を下流に向けて障害物を避けれるようにせえ、無理して止まろうとすな、底に何あるか分からへんから」 「……浮いたけどこの後どうすりゃいいんだ」 「流れが緩やかになったら横泳ぎ」 「どんどん急になってる気がすんだけど…」 怖い。一人じゃないからまだいいが、それでも自分でどうにもできねえ手足をもがれた様な感覚に冷や冷やする。 川岸に平行して走るヨンイルだったが、お互いに手を伸ばしても届かなそうだ。 「えーとえーと前にビバリーと流された時はロープがあったんやけど…あああこの先滝壺やん!……もうええわ!」 「!?」 「イチかバチか」 とんっと足元の大岩を蹴ったヨンイルがこっちにすっ飛んでくる。 「ぷわっ」 盛大な水音、その直後に顔を上げたヨンイル。 息を継ぐ間もなく泳ごうとするが、ふと何かに気が付いたような顔をする。 「……ん?」 「あ゛?」 場違いに明るい声に機嫌悪く言い返す。 「何や、ここ足着くやん」 「……」 ◆ 「ここんとこに大岩あってよかったわ」 川の中で踏ん張ったヨンイルが、手近な石を支えにする。 それを支えにして俺が立つ。すっかり森は暗くなっていて、今から戻るのかと考えるとうんざりする。 「さっきの釣り道具んとこまで戻るか……って、あれ?」 「ん?」 「ロンロンフードん中………川のヌシや!」 「うぇっ」 道理でなんかビチビチ言ってると思ったら魚かよ! 「……でっかいなぁ」 「ああ」 そいつはかなり大きくて、フードもかなりぎりぎりで引っ掛かっていたみたいで。 俺が持ったらおそらくぬるっと川へ落としてしまいそうだ。 「そぉい!」 「あっ」 ヨンイルが次の瞬間川に投げ入れる。 「おい、なんで…」 「ロンロンしっとるか?川の主ってな、祟るんやで」 「お前はまた何の漫画を読んだんだよ…」 …まあ、小魚とかならともかく、大きな魚だとどっから手を付けたらいいのか分かんねえと思ったのも事実だ。 「…帰るか」 「ま、水だけでも何日かは平気みたいやしな」 「怖いこと言うなよ…」 【帰】 ------------- 因みにレイジ↓ 1:殺気で動物が逃げる 2:仕留めるが捌き方に困る 3:別に困りはしないが血の臭いに色々集まってくる 4:捌いてもいないのに戦闘中に凱さん/さっちゃん様/道了さん現る→相手してる間に動物逃げる 4▼(会話文) ------------- ヨ「うぁー…あったかいなー……」 レ「結局植物だけか…」 直「文句を言うな」 侍「うまい」 ロ「結構いける」 ヨ「ううー…うまかったけど………川のヌシが恩返しに来てくれんかなぁ」 ロ「無理だろ」 レ「凱から飯もら…うん、ねーな」 ロ「無理だろ」 【続く】 ------------- 龍コンビの兄弟っぽさが好きです お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.08.27 11:55:01
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