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カテゴリ:🔗少プリ
壱
回想終了、目の前では幽霊が居たらお仕置きかナンパしてやると笑うレイジと不謹慎だと怒るサムライが言い合い、その近くには半泣きのビバリーが言い出しっぺのヨンイルを揺さぶっている。ヨンイルは困ったような半笑いを浮かべ、リョウは「心霊写真って高く売れるかな」とカメラの調整をしている。 「夜中っスよ、懐中電灯だけが頼りの暗闇の中ですよ!! トンネルの壁や吸い込まれそうな道の奥なんてやばいっス、絶対やばいですって!!」 「行って帰って大体10分位、昼間には何の変哲もない場所やったから大丈夫やて。あとレイジにサムライ、怪談の名所ではあるけど別に事故物件ってわけやないからべっぴんの幽霊は出んと思うで」 早くも半泣きのビバリー、険を持つサムライ、そんな嫌そうな2人と乗り気な3人の間でおろおろしているロン。 まったくこれだから凡人の集まりは。 「問題は幽霊どうこう危険どうこうと言うことではない。」 口を開く、眼鏡を押し上げて呆れた口調で言う。 「君達がどうかは知らないが、僕の個人的な意見を言わせてもらえばこのような遊びは趣味ではない。僕ならそんなことをやっている暇があったら気になっている本の続きを読む。丁度この近辺の気候や旅館の雰囲気は気に入っている、読書が捗りそうだ。君達だけで勝手に遊んでいろ」 そう言って踵を返そうとすると、ヨンイルが慌てた様子で呼び止める。 「でも、折角ええ点取ったご褒美旅行なんやで?ちょっと付き合うてくれてもええやん」 「だからと言って僕を巻き込むな。大体こんな不潔な湿度の高そうな場所に好んで入る人間の気が知れない、それに不審者がもし出現したらどうする」 「汚いのが嫌なら触らなければええやろ?不審者ゆうてもほんとにここマイナーなとこやし、もし出たら、この静かさや、絶対に気付く。そしたら合流するか連絡する。それに本気でやるなら、脇道とか遠回りの道使うてすれ違わないようにするもんやけど、今回はちゃう。一年に一度のお願いや直ちゃん、一緒にどきどきしよや!次のテスト頑張るから!な!」 「……仕方が無いな。本当に一度だけだぞ」 そもそも肝試しとは、もっぱら夏の夜に行われ霊的な恐怖に耐える日本の伝統的な遊戯の一種だ。 霊魂の存在を信じない僕には効果がない。かと言って物理的な恐怖に耐える今にも倒壊しそうな廃墟や不審者の出没しやすい地区に行くというのは御免だが、より懸念すべきことがあるというのに放っておくわけにはいかない。 「確かに君達だけでは不安が残るな。特にヨンイルとレイジとリョウはトンネルを破壊して弁償を命じられかねない。監督役として僕もついていくべきだろう」 「何で僕ら名指し!?」 「何故、だと?それが分からないほど麻薬に脳を侵されたか?前科があるからに決まっているじゃないか。 リョウ、君は文化祭で学校の備品を販売したな」 「それのどこが悪いのさ?使わない中古品を引き取ってもらってその分を新しい機器に当ててるんだから学校の役に立ってるじゃん」 「「鍵屋崎が1ヶ月座った椅子」だの「レイジが使用していたロッカー」だのといった付加価値を付けて切り売りするのが問題だと言っているんだ!それにレイジは喧嘩、ヨンイルは火薬でこの間騒ぎを起こしたばかりだろう」 「いや、さすがにトンネル倒壊はないて」 「そうそう、別にここには喧嘩相手いないんだし無茶はしねえって」 まだ何か反論したげなリョウを放置して今度は二人に食って掛かるがおどけた様子で交わされ癪に障る。 「先程幽霊が居たら倒してやると息巻き意気込んでいたのは何処の誰だったか記憶に残っているか」 霊魂および幽霊の存在など僕は信じないが、そういった架空の存在に惑わされる人間が存在することは知っている。 そう言うと二人が誤魔化すようにへらへらと笑う。 「付け加えるならば、暗闇に乗じて偶然山へ熊を取りに来ていた凱や山に何かを仕込みに来たホセやロンを追いかけてきた道了などが登場する危険性もある。というかむしろそちらのほうを心配すべきだ」 「いや、そっちのほうがありえねえだろ。つーかありえるって思いたくねえけど」 ロンが嫌そうな顔で可能性を否定するが、僕は楽観的になることを拒否する。 「念には念を入れるべきだ。警戒は常に怠らず、十分な装備と予備知識を持って行くべきだ」 「また明日の昼出直すなんて面倒臭いよ」 眉を潜めて言うリョウ、その緑色の眼はトンネルへの好奇心と僕に対する敵意で爛々と光っている。 「そうだぜ、こんなトンネルちょっと行って帰ってくれば大丈夫だ」 野生の勘に安全だと裏打ちされてでもいるのか、それとも恐怖を誤魔化す為か、ロンの語気はいつもより荒い。 「……お守りは持ってきてある」 何故お守りとお札を取り出すサムライ、いつもは帰ろうと言う癖に何故乗り気なんだと思うが 僕以外の全員が妙なテンションに支配されている中後回しにすることも出来ない。 何が潜んでいるか分からない暗闇の中。 凱の周りを蹴散らす威圧感、ホセの周りをいつの間にか掌握しているような威圧感とはまた違った、弱いながら何か底知れないものを秘めているような奥には、昼間のような光は見えない。 四面楚歌。後は僕が頷けばいいという状況。 「な…なあ、やっぱいいぜ。明日にしてやっても」 「!」 そうこう言っている内にロンが渋々と言った形で言う。この時ばかりは助かったと柄にも無く思う。 「普段後先考えない君にしてはよく言ってくれた」 「うっせえ」 「えー、何だよロン、あ・・・・・・もしかして怖いの?」 「は?別に怖くねーし」 レイジがロンにちょっかいを掛け始める。ムキになって返すロン。更にニヤニヤと話しかけるレイジ。 嫌な予感が募る。 「またまた、そっか、怖いのかー、まあロン一番年下だしなー、こういうとこ初めてだろうしなー、 仕方ねえよ、うん」 「だから怖くねえっつってんだろ!?」 「別に隠さなくていいぜ、そんならまあキーストアの言ってる通り明日また出直してもいいんだぜ」 「…っじゃあ俺一人で行ってやるよ!男の意地見せてやる!!!」 「ロン!?」 「え!?おいロン、ローーン・・・!?」 「……待て、ロン!!」 突然走り出したロンが手提げを鷲掴む、そんな冷静さが残っているならば呼びかけに立ち止まりはしないかと期待するが意地になったロンは駆り立てられた兎のごとく走り続ける。小さな背中はあっという間に闇の中へ沈んで行った。 「ロンロン、懐中電灯持ってってもうたな」 手を庇のようにして見るヨンイルは苦笑いをしている。……懐中電灯はもともと3つしかない。 「悪いけど俺にも懐中電灯くれねえか?」 「そしたら誰かがワリ食うじゃんか」 「君が悪いのだから自業自得だ」 「スマホのバックライトがあるじゃないっスか」 「ま、早く行ってやりい王様」 「皆つめてえな!」 口々に拒否され、笑顔ながら困り果てた顔をするレイジ。器用な表情筋だ。 「……念のため、全員で行くか?」 サムライが心配そうに問うが、レイジは手を振ってトンネルに向き直る。 「いや、いいや。大丈夫大丈夫、俺結構夜目効くし。 それに全員で行ったらいちゃいちゃできねえじゃん」 ---------- 冷淡に無感動にひたすら淡々と、闇の奥へ全てを吸い込んでいく通路。 レイジの明るい声は、彼以外存在しない空間で不気味に響く。 「……全然見えねえ。あいつほんと足速いなぁ…」 「つーか、ロンライトつけねえのかよ、つけてたら気付くのに」 「探しにくいなほんと」 「ま、トンネル走りきったら流石にそこで待っててくれんだろ」 「ちょっと急ぐか」 軽快な歩調は、やがて闇に紛れて聞こえなくなった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.09.12 01:04:56
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