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長押 綴

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2014.10.29
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カテゴリ:🔗少プリ
 一所懸命に取り組んだものが報われるとは限らない。それが世の中なんだってことはとっくの昔に知ってる。
 だからこそ要領の良さとか立ち回りのうまさとかを重視する。あとは好奇心と快楽。心の中で天使と悪魔が対決することがあるっていうけど、どっちが天使でどっちが悪魔なのかは知ったこっちゃない。努力?根性?友情?そんな暑苦しい精神論願い下げだ、そういうのが好きな奴だけがやってればいい。

 だから、今みたいに楽しくもないのに努力とか根性とか協調性とか要求されるのははっきり言ってストレスがたまって仕方がない。現在劇の合同練習、第何十回目の真っ最中。
 台詞がみんなあやふやな内はまだ良かった、どこらへんが悪いのかがはっきりしてたから。どこらへんを頑張ればいいのかがまだ分かり易かったから。だけど大体の形が整って、あとは『何か違う』と観客役の奴が思った所を直していく段階に上がった時から急にめんどくさくなってきた。何回も何回も修正することで、ちょっとずつ良くなっていくのは分かる。演技してる側の時はよく分からないまま言いなりになり続けることにモヤモヤしたり、直ったと褒められても自分じゃよくわかんなくてちょっと微妙な気持ちになったりするけど、いざ自分が観客側にまわったら確かに色々言いたくなる気持ちも、分かる。


 でも、何回も何回もやり直して、自分としてはかなりやり切ったと思うのにそれでも駄目って言われると、流石に精神的な疲れが半端ない、こればっかりはどうしようもないんじゃないかな。


「んー、悪くはないんやけどなー、声の感じがちょっと幼なすぎてあかん。あと2-3歳年取った感じで。あともうちょっと辛さ増して」
「……さっきは、もうちょっとかわいい感じでって言ってたじゃん。だからかわいくしたのにさ」

岡目八目筆頭ヨンイル。そろそろ一発OKして帰りたい僕にとっては天敵。言い返すと、確かに言うたけどと眉を寄せる。

「んー、なんちゅーかまだ違うんや、むしろさっきのほうがええ位や。一概に可愛さゆうても違う種類のやつがあるんや、例えば」
「いい加減そうやってオタクの基準で物言うのやめてくれる?」

誰々よりも誰々のほう寄りだとか、誰々の恥じらいをもうちょっと入れた感じとか、ちらほら知ってるキャラクターの名前も入るけどそれでも分かりづらいったらない。勿論僕だけじゃなくて他の面々も注意されまくってるけど、何回もリテイク食らう中で殺気立ったり無気力になったりしてるのがほとんどだ。

「ヨンイル、ちょっと細かい所に拘りすぎじゃねーか?もう時間ねえし、他の奴の練習終わらせとかないと」

傍観していたレイジが言い出す。
僕への気遣いははっきり言ってゼロだろうけど、このときばかりはレイジに感謝だ。

「そうそう、もう外真っ暗だよ?そろそろ安田かラッシーが見回りに来ちゃうじゃん。僕もうちで練習してくるから、今日のところは放免にしてよ」
そう言うと、悔しそうな顔でヨンイルが頷く。自分のクラスのメイド喫茶とのダブルワークの癖に、何で当事者よりも必死になってるんだこの道化は。

 僕の部分は取り敢えず終了、音響役でやたら弄る所がいっぱいある機械を操作してるビバリーの隣に座り込んで足を投げ出す。

「もうやだ、もう疲れた!ねービバリー、サボらない?」
「これの後なら愚痴でもなんでも付き合いますから、ちょっとだけじっと我慢の子してて下さい」

そう言うビバリーは僕を振り向くこともなく、始まった次のシーンに集中してる。何回も言ってる台詞だから仕方ないけど、そっけない反応に余計に気分が落ち込む。身も蓋もない振られ方をした僕は、ビバリーにちょっかいを出すことも出来ずふらふらと視線を彷徨わせる。とは言ってもみんなゾンビみたいな顔してるから見て面白いものなんてないけど。興味はやがて右の壁にある時計に移る。焦ってる時はチクタクチクタクうるさい癖に、今は酷くゆっくり動いてるそれに、何故かママの子守唄を思い出す。
 ああ、眠い。

 目の前では相変わらずヨンイルがこうしてああしてと言っているけれど、その当事者はもう僕じゃない。やりたいこと、観客に伝えたいことだけが先行している様子を見ると、何だか世界全体が人形芝居みたいに現実感がないものになっていくような感覚に包まれる。この劇の場合元々のキャラクターが居る分、表情の解釈だとかちょっとしたしぐさとかが人によって様々な想像図になる。正解がないどころか誰かの正解が他の誰かにとっての許しがたい不正解だったりする。
 誰かが友達の言った通り直してみたら、それを他の友達に元の方が良かったとか言われたりもしてしまう。

 やればやるほど、頑張れば頑張るほど、終わりが見えないことに絶望する仕組み。
 結局この際限ない不安をぶった切ってくれるのは本番だけなのだ。

 本当にどうして頑張ってるのか不思議になる。

 ここまで頑張ったんだからもういいや、とか何の為に頑張ってるんだかわかんなくなったりとか、無意識からぽこぽこ浮かんでくる言葉が疲れたばかりになったりしても。もはや意地で続けていたりしても。終わった後気が抜けちゃってうっかり電柱にぶつかりそうになったりしても。

 皆本当に馬鹿じゃないの。












「リョウさん、起きて下さい」

……色々考えてたら、うっかり眠ってしまったみたいだ。


突然聞こえた声に勢いよく首をはね上げると、体育袋を振り回した時みたいに頭を振る羽目になった。

「えー……もう、僕、眠いんだけど……」
「大丈夫ですよ、もう今日の分終わりましたから。後はうちでゆっくりぐっすりして明日に備えるだけっス」

「え」

いつも通りの、ビバリーの白い歯を見せる底抜けに明るい笑顔には疲労とそれ以上の達成感が滲んでいてそれが嘘じゃないことを伝えてくる。

え、本当に終わっちゃったの?

自分からやりたくないと思った筈なのに、いざその必要がなくなると虚無感が襲ってくる。
入口の近くには安田が居て、教室の中の人数はかなり少なくなっていて。今日はもう終わりなんだと実感する。

「……そう」

別に他の奴の演技なんて、見なきゃいけない訳じゃない。どこらへんが気になるって意見を毎回毎回言ったり聞いたりしなきゃいけない訳でもない。だけど。

「……ビバリー、お疲れ様」
「ありがとうございます。リョウさんも、お疲れ様っス。」

ビバリーにお疲れ様って言われた時、昨日はもっと嬉しかったような気がする。
まあ疲れ切ってるから寝ちゃったって言ったらそうなんだけど、でもなんか……悔しい。

「明日はもっと疲れるかな」
「……いや、明日こそちゃんと休まなきゃ駄目っスよ、本番で集中できなくてずっこけたら元も子もないっス」
「そりゃそうだけど……」

なんで僕は残念な気持ちになってるんだろう。
……なんで、今晩の休みよりも、明日の練習が、気になるんだろう。





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最終更新日  2014.10.30 01:56:24
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