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長押 綴

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2017.03.25
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カテゴリ:.1次小
波の音がみみにこびりついている。

航海の音、後悔の音。

人は願いを過去の自分を重ねた相手に託す。
私はずっと、託されて、流され続けてきた。
時には誰かに誰かの想いを届け、時には要らないものを吸い取り、誰か必要としている人に届け、どうしようもなければ川底へ沈めてきた。



先日、名づけ辞典なるものを読んでみた。
面白かった。綺麗で羨ましいと思った。
に関する名前、山・森林に関する名前、に関する名前、四季に関する名前……


それぞれ、居場所が決まっていて羨ましかった。

私の名前は水にまつわるものだ。
だから空の上にも、地面の下にも、人の隣にも、人なんていない所にも行ける。
大きく一体化することも、小さく分かれることも、厚くなることも薄くなることも、
重くなることも軽くなることもできる。


だけど、どこかにずっと居られない。
常に流れていなくてはいけない。
誰かに常々寄り添いながらも、ずっと一緒になんて居られない。

だから、誰かの身内に一瞬いつもなるけれど、いつもずっとは居られない。
いつもずっと居ると腐っていく私を見たくないからかもしれない。


自分の為の世界じゃない中で、唯一自分の為の世界かもしれないのが、身内だ。
でも、その相手は絶対に信頼できなければ、逆に取り込みたくないから排除しなければいけない・・そんな意識がわきやすい。自然、寛容にもなれば潔癖にもなる、そういうものなんだろう。


その温かさが羨ましかった。

ほら、私の中からまたひとつの魚が、居場所を見つけて陸へ上がった。
私はそれをただ笑って見送ることしかできない。


誰かが私の流れを見ていても、その後はまた違う私を見る事になる。

私の傍には私しかいない。

目からこぼれた涙を拭う人も居ない。


だけど目からこぼれた涙を見せたいとも思いたくない。


私は雨になって、誰かの涙を洗い流す側で居たい。





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最終更新日  2017.04.14 00:34:57
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