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波の音がみみにこびりついている。
航海の音、後悔の音。 人は願いを過去の自分を重ねた相手に託す。 私はずっと、託されて、流され続けてきた。 時には誰かに誰かの想いを届け、時には要らないものを吸い取り、誰か必要としている人に届け、どうしようもなければ川底へ沈めてきた。 先日、名づけ辞典なるものを読んでみた。 面白かった。綺麗で羨ましいと思った。 空に関する名前、山・森林に関する名前、夏に関する名前、四季に関する名前…… それぞれ、居場所が決まっていて羨ましかった。 私の名前は水にまつわるものだ。 だから空の上にも、地面の下にも、人の隣にも、人なんていない所にも行ける。 大きく一体化することも、小さく分かれることも、厚くなることも薄くなることも、 重くなることも軽くなることもできる。 だけど、どこかにずっと居られない。 常に流れていなくてはいけない。 誰かに常々寄り添いながらも、ずっと一緒になんて居られない。 だから、誰かの身内に一瞬いつもなるけれど、いつもずっとは居られない。 いつもずっと居ると腐っていく私を見たくないからかもしれない。 自分の為の世界じゃない中で、唯一自分の為の世界かもしれないのが、身内だ。 でも、その相手は絶対に信頼できなければ、逆に取り込みたくないから排除しなければいけない・・そんな意識がわきやすい。自然、寛容にもなれば潔癖にもなる、そういうものなんだろう。 その温かさが羨ましかった。 ほら、私の中からまたひとつの魚が、居場所を見つけて陸へ上がった。 私はそれをただ笑って見送ることしかできない。 誰かが私の流れを見ていても、その後はまた違う私を見る事になる。 私の傍には私しかいない。 目からこぼれた涙を拭う人も居ない。 だけど目からこぼれた涙を見せたいとも思いたくない。 私は雨になって、誰かの涙を洗い流す側で居たい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.04.14 00:34:57
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