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カテゴリ:.1次題
ある所にわがままなお姫様が居ました。
ことあるごとに暴言を吐き、臣下を虐め、王を困らせ、政務をこなすことには嫌な顔をし、その癖何もすることがなければ暇と騒ぎたてるそのお姫様は、臣下の苛立ちの種でした。 しかしお姫様はそれを改める気はかけらもありませんでした。 何故ならお姫様よりももっと評判の悪い、怪物と恐れられる兄王子が居たからです。 しかし、ある日兄王子はいつものように宝物、貢物を気まぐれに壊した後、自分の王冠と玉座までも捨てて旅に出てしまいました。 お姫様は嫌いな兄が居なくなったことには喜びましたが、自分よりも酷い怪物が居なくなったことを恐れました。 なのでお姫様は周辺諸国からあらゆる評判の悪い文官、武官、女官達を集め、また元宮廷で働いていた受刑者たちを宮廷に呼び戻し、自分よりも酷い者たちで周りを固めることにしました。 しかし評判が悪いことにはそれなりの理由があるもので、彼ら彼女らはお姫様の手には全く負えませんでした。 ほどなくして、招いた者達によってお姫様はお城を追い出されてしまいました。 しかしお姫様にこの生活は合っていました。 山には山賊、街には奴隷商人、村には悪徳役人… 自分より酷い人間が外にはたくさん居たのです。 そうしてより酷い者を見る為だけにお姫様はどんどん道を踏み外していきました。 あいつよりも酷くないと思えば思うほど、一歩踏み出していくことができました。 けれどそれにも限界がやって来ました。 「お前は俺よりも酷いな。ある意味尊敬するよ」 「……はい?何ですの、それ」 「俺がいくら酷い拷問や遊びをしていても全く動じないどころか、むしろ恍惚とした顔で見てるんだもんなあ」 「私だってそれが悪だということくらいわかっていてよ。それに私はあなたほどひどいことはしませんわ」 「ああ、悪だよ。そうしてお前は一線は越えないんだ、俺と言う一線は。 そういう賢さというか狡猾さに、反吐が出る」 「あなたの傲慢よりはましですわ」 「それもそれで傲慢だがな。……まあ、いい。俺は興味が出てしまった。 俺がもし引き返したらお前はどうする?」 「どういうことです」 「俺はもう足を洗う。お前に悪の頂点を譲ってやるよ」 瞬間、お姫様は隠し持っていたナイフで彼の喉笛を掻き切りました。 「…これで、貴方は永遠の一番の悪」 「私は一番ではありません」 そうしてお姫様は、永遠にその心の中だけで、二番目の悪であり続けました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.10.31 22:01:59
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