|
カテゴリ:🌾7種
・外伝終了後の安居と涼とまつりちゃんが船旅してたら大嵐に巻き込まれて桃太郎同様数か月前の蓮の泥沼に流れ着く話
* カイコ 1 * ぐるぐると、湯通しした蜘蛛の糸を巻いていく。 「……」 雑念に気を取られてしまっていたせいで雑に巻いてしまった為、逆向きに腕を回して、もう一度丁寧に巻きなおす。 ぴちりと、綺麗に整った糸。 巻きなおした結果得られた成果。 現実も、過ぎた時間を巻き戻して綺麗に完成できればいいのに。 だけど現実は湯通ししていない横糸のようなもので、かつて巻いた糸に後から巻いた糸は引っ付くし、絡まるし、ぶつ切りになってぐちゃぐちゃになって全部を台無しにしてしまう。 あれだけ子供時代頑張ったのに。 綱渡りの中、死なないように、落とされないように、あの肉と臓物にならないように歩いてきたのに。 あれだけ仲間と協力しあってやってきたのに。 俺はそれを台無しにしてしまった。 その『台無し』がどこから始まったのか。 分からないが、恐らく卯浪を殺したよりは後なんだろう。 * 「安居!こっちは戸締り終わった、シーアンカーも降ろしたぞ」 「分かった。こっちも帆はもう畳んだ、船主も風上に向けた。外に出している荷物もじきに片付け終わる」 急な嵐がやって来るのは珍しい事ではない。小瑠璃が居ない分、俺達はより雲や波、小動物の様子を観察して事前に天候の変化を予想するようにしていた。 「そんなものはもういいから、もう戻れ!お前が船から放り出されたら元も子もないだろう」 「っ……分かった」 日干しにしていた魚介類はもう諦めよう。 俺達は叩きつけるような雨と風の中、屋内に入った。 * 「……いつ頃やむかなぁ、これ」 濡れた服と食料を干しているまつりに、蜘蛛に魚を与えている涼が返す。 「さあな……異常気象が続いているから、下手すると一週間は続くかもしれん。 ただ幸い食料はあるし、船のメンテナンスは終わったばかりだ。気密性はほどほどに高い方だし、安心しろ」 「そう…なの?」 まつりの不安そうな声が若干和らぐ。 俺も補足しておこう。 「ああ。そういった面では大丈夫だ。だが、穴が開いてそうとか、変な音がしたらすぐに報告してくれ」 「もちろん!まかせて!」 ナッちゃんみたく頑張るね、と言うまつりに、以前蝉丸の危機に気付いたナツを思い出す。 ナツは今どうしているだろうか。あゆや、他のチームの気が強い人間と話せるようになっているだろうか。 そう思いながら、ちらりと高窓を見た。 波が相当高いようで、一部が強い勢いで高窓にたたきつけられた。 「……なあ」 嫌な予感がする。 「……おい、水が!水が溢れてる」 「どこだ」 「えっ、どこ!?何で塞ぐ!?」 ここだ、と言って、入口に一番近い高窓に手を伸ばした瞬間。 柔らかい、泥のような何かに引っ張られたような気がしてーーーーーーー 気付けば俺は、夢の中に居た。 「……茂?」 目の前で、見覚えのある赤毛がふわふわと揺れている。 俺の親友。 俺の前から消えた幼馴染。 「茂!どこへ行くんだ」 何故ここに居るんだ。 生きていたのか。 駆け出すけれど、走っても走っても、目の前の茂に追いつけない。 ゆっくり歩いている茂は、いくら叫んでも俺に振り向かない。 「茂!待ってくれ」 途端、何かに足を取られ転ぶ。 「う゛っ」 転んだ途端、顔と手の周りにふわふわしたものが現れる。 ああ、これは蓮華の花だ。 いつかあゆがその中心で笑っていた、綺麗なピンクの花畑。 「……茂…?」 顔を上げると茂は居なかった。探す為に立ち上がったが、周囲は真っ暗で、ただ足元だけが煌々と、毒々しいまでのピンクで光っていて。 「茂!どこだ!!」 花をかき分けて歩く。 けれど段々と花の背が高くなる、いや、俺が縮んでいるんだ。 とうとう花に身長を追い越され、かき分ける俺の小さな手からは次第に力が抜けていく。 どこだ。 ここは、どこだ。 俺達の施設じゃない。 未来でもない。 ここは、どこだ。 * 強烈な光が目に刺さった。 目が覚めた時、俺はまず自分の手を確認した。 何故か泥まみれで、うまく持ち上がらなかったが、自分がまだ大人の手を有している事にほっとした。 得た力を失う恐怖からは、ひとまず逃れられた。 続いて周囲を確認する。 「…涼!まつり!」 どうやら俺達は、どこかの泥沼に流れ着いていたらしい。 仰向けから、近くの蓮のような植物の茎を掴んで立位になり、2mほど離れた場所に居た二人を起こしにかかる。 涼はまつりの腕を強く掴んでいて、何だかんだでこいつも満更じゃないんだなと頬が緩んだ。 「……二人とも脈は、あるな。おい、涼、起きろ」 「…あ゛ぁ…?」 「まつりも……起きられるか」 「ぅ、うーん」 頬をぱしぱしと軽く叩くと、涼には鬱陶し気に払われた。 一方まつりは億劫そうに声だけ返すが、それだけだ。 「直前の記憶はあるか。船の窓から浸水していた記憶だ。……俺達は恐らく、船の一部が壊れたせいで、そこから流し出されてしまったようだ」 「……」 「今は昼間だし、流れ着いたここは比較的安全なようだが、危険な夜行性動物も近くに居るかもしれない。一旦ここを出よう」 「……了…解」 途轍もなく低いテンションの涼は、それでも身を起こし、未だにむにゃむにゃと寝言を言っているまつりを仰向けにしたまま引っ張って歩き出した。 俺は二人の為にも通りやすい場所、そして動物の少なそうな、物音の少ない場所を目指し、植物をかき分けて歩いた。 「……おい、起きろ、まつり」 「……うう…」 陸に着いても暫くまつりは眠っていた。 具合が悪いのかと診察したが外傷も熱も特にない。 仕方がないので木の洞にまつりを入れ、周囲の落ち葉をかき集めて布団の代わりにした。 「……まつりが起きたら周囲の探索をするか」 「いつまで待つつもりだ」 「もし長引くようなら、食料や、生きるための道具の材料は俺が調達してくる」 「お前ひとりで行かせられるか」 「大丈夫だ。もう呆けてはいない」 「……勝手にしろ」 涼が不承不承といった体で引き下がる。 実際、俺達の揃いのナイフは持っている。 だが薬も食料も包帯も毛布も代えの服も綺麗な水もないこの状態では、猛獣に襲われる前に自然界に命を奪われる。 ここが外国で、話が通じて協力関係を結べる人間が居れば手っ取り早いんだが、さて…… 「……」 「……!」 唐突に、近くから声が聞こえてきた。 「…人、か?鳥か」 「……なにか、居るのか」 先ほど何かの気配がするから、避けた方向だ。 「……俺が遠くから見てくる」 「……待て。俺も行く」 「いや、涼、お前はまつりについていろ。意識不明のまま肉食動物に襲われたらどうする」 「……そうなったら流石に目を覚ますだろ」 「そういうのは心配そうな顔で言うことじゃないだろ」 無理はしない、と言うと、無茶しそうだから言ってるんだ、と返される。 ずっと前、小瑠璃だったか、涼を案外面倒見がいいとか言っていた気がするが、こういうことか。 少し笑うとぶすくれた顔で何も言わなくなったので、「すぐに戻る」と言い残し、俺は歩き出した。 音がしなさそうな、足音の立たなそうな場所を選んで歩く。付近の枝につかまって超える。 人里なら猶更、罠がないか注意して。 そうしているうちに、あることに気が付く。 「……ここは…もしかして」 以前俺達が、夏の村……いや、夏Aの村を築いていた所ではないのか。 しかも、話し声にはどこか聞き覚えのあるような気がする。 -…もしかして。 「源五郎、あゆ?」 振り返ったその顔に、忌避と嫌悪が浮かぶ事を想定して、少し身構える。 「……あれ?安居くん、崖の方にいるんじゃなかったっけ?」 「どうしたのその恰好、沼に落ちたの?」 「……え?」 その目は以前、この世界に来た当初と同じで澄んでいて、そこに俺への悪感情は感じ取れなくて。 「……あ、ああ、沼に落ちた。涼とまつりもだ。今連れてくる」 もしかしたら。 もしかしたら先日、土砂崩れへの対処をしたことで、少し見直してくれたのかもしれない、なんて思いながら俺は足を踏み出した。……直後。 「まつりって、誰?」 あゆの言葉に俺は固まった。 【続】 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.11.23 23:27:09
コメント(0) | コメントを書く |