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長押 綴

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2020.09.01
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カテゴリ:🔗少プリ
第一話


「…なあ、鍵屋崎。お前もしかして」
『もしかして俺が見えてる!?ヤッター!』
「ロン。この見掛け年齢に反して低能な大人は何だ」
「俺の背後霊」
『守護霊って言ってくんね!?』

 -研究の協力者・ロンは、随分と厄介なものを持っていたようだ。
 朝から煩く喚き散らすそれは確かに人間ではありえない透明感と浮遊能力を持っているようだった。

「ひとまず今日の要件はひと段落ついた、君の能力とその不審者について疑問を晴らしたい」

 ロンに話した要件とは、研究・人体実験のことだ。
 僕の家は代々人間のDNAに関する研究・培養組み換え実験を進めている。
 今回ロンに協力してもらっている研究は、爆風で失われた手足の再構築だ。

 義手で出来た右手を後頭部に当て、彼は言う。

「戦地で拾ってきちまったんだよ。俺は昔から幽霊が見える気質だから色々と捕まってたんだけど、こいつが来てから追い払ってくれるからそう邪険にするわけにもいかなくて甘くしてたらこんな付け上がっちまった」
『俺はロンの相棒のレイジだ!よろしくなキーストア!』
「キーストアとはなんだ」
『鍵屋はキーストアだろ?』
怪しげな色黒金髪の大人は、話しているうちにしゅるしゅると縮み、こどもの姿になっていく。
「妙なあだ名をつけるな」
『いいじゃんいいじゃん。てか、この前まで何回か会ってたけど俺の事見えなかったよな。ロンの周りうろうろしてたのに』

 そういいながら少年はひょいと、170cmのロンの頭上を飛んだり跳ねたり、しまいには頭上でくるくるまわりだした。まるで猿回しの猿だ。
 顔をしかめてロンは口を開く。

「……悪いな鍵屋崎、俺と一定期間一緒に居る奴にはこの霊感がうつるんだ。
 なんか嫌な目に遭ってねえか?」
「……いや、むしろ助けられた。礼を言う」
「!?鍵屋崎が礼言うなんて、明日は槍でもふんのか!?」
「どういう意味だ」

 先日廃墟で遭遇した親切な不審者の話をすると、ロンは義手の右手と培養して移植した左手を振り回して焦ったように言った。
「そりゃ間違いなく幽霊だが……幽霊がそういういいやつばっかりとは限らねえからな、今度からは会ったらすぐ逃げろよ」
 そんなことは分かっている。
「僕を誰だと思っている、自分で自分の身を守ることくらいできる、僕の危機管理能力を甘くみないでもらいたい」
「それができそうにねえから言ってんだよ…もうあぶねえ所に一人で行くな、昨日みたいなことがあったなら俺が付き合ってやるから声かけてくれ」
「君に無用な恩を着せられたくはない」
「お前な…」
「ところで、手の調子はどうだ?」
「ああ、抜群だ。……なあ、鍵屋崎」
「なんだ」
「感情、魂って、電気信号の集まりだって前に言ってたよな」
「……似たようなことは言ったな」
「ならさ、こいつらみたいな幽霊も電気でできてるってことか?」
「……プラズマ、と呼ばれることはあるな。そう遠いものでもないだろう」
「じゃ、じゃあ、ならさ!幽霊の電気刺激?とか言うやつを、培養した体の組織に伝えれば、こいつらは生き返れるんじゃ……」
「……拒否反応が心配だ。
 遺体の一部が残っているならもしかすると可能かもしれないが」
「……レイジ」
『悪い、俺どこで死んだかも覚えてねえ。気付いたらあの路地裏の隅に居た』
「……」
「あるいは、身体組織や遺伝子の近い親族の体が…」
『そっちも覚えてねえな~…ってか別に今は大丈夫だし、生き返らなくてもロンさえ傍に居れば俺は幸せだから』
「……」

 俯いて黙り込んでしまったロンを、僕とそう背丈の変わらないレイジが手を伸ばして撫でようとした。けれどその手は届かなかったから、レイジはふわふわと浮いて撫でて、そしてロンの頭を抱き締めた。

「そんなのが、幸せなのか」
『こういうのを、幸せって言うんだぜ』


 勝手にのろけだした二人を置いて、僕は昨日の落ち武者に礼をするべく研究室を出た。
 昼間の方がいい。魔である彼はきっと夜が生息圏の筈だし、直接礼を言うべきだとは思ったが、それでは不審者や、ロンの警戒した悪霊に遭遇する確率も上がってしまう。

 ロンの話が本当ならば、僕はきっと今とても危険な状態なのだろう。

 ……もしかすると、恵から距離を置いた方がいいくらいに。




 恵に作品を取り戻してきたことを伝えると、泣かれた。
「危ないことしないでほしい…心配だから」
 そう言われたのだから、僕は体を大事にしなければいけない。

 恵の言うことは、恵の不利益にならない限りは絶対なのだ。


 だから、これっきりだ。








「先日は助かった。礼を言う」
 鞄から礼を書いた手紙と、花屋で売っていた薄桃色の菊を置いて、手を合わせた。
 そして聞こえないだろう礼を言い、踵を返した。


 その時。背後で何かがふっと笑った気がした。
 『彼』かと思い、振り向く。

 すると。

「こんなところで何してんの、お嬢ちゃん」
「っ…」


 そこに居たのは、似ても似つかないにやにやと笑う学生。

「学校サボリ?」
「サボリじゃない、僕は…」
「俺もサボリ!奇遇だね~」
「悪い遊び教えてやろうか?」

 じり、と後ろ歩きで下がっていると、どんと何かにぶつかった。

 その時、『彼』と近い古めかしいにおいを感じた気がして、振り向くーーーーーー



「こんにちは。鍵屋崎直くん、って言うんだね。何を探しに来たのかな?僕が手伝ってあげようか」


 にたりと、真っ赤な口が吊り上がった。

 人間だ。 まぎれもなく人間なのに、それはどこか、あの世のにおいがしていた。

【続】





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最終更新日  2020.09.25 09:46:18
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