|
カテゴリ:カテゴリ未分類
夜半の強風にあおられたのだろう。桜並木の通勤路は、桜の花びらが羽毛のように積もっていた。
散ったのは桜だけではなかった。大学の山岳部で同期だったIも、桜と共に散って逝った。 やはり同期だったAから電話があったのは、まだ桜が満開だった週末のこと。悲しい知らせがある、と切り出したAの言葉から、誰かの死は覚悟した。しかし、Aが告げた人の名は、思いもよらぬものだった。 海外のプラントの立ち上げのため単身赴任していたIは、お子さんの入学式のために一時帰国した矢先に、心筋梗塞で亡くなった。それこそ、一夜の強風で散った桜のように。 大学に入学した時、Iと私は同じクラスだった。自己紹介する中で、共に高校で山岳部に所属していたことを知り、ワンゲル部にせよ山岳部にせよ、同じ部に入ろうと誘ってくれた。 少人数だったせいもあってか、部員はみんな仲が良く、絶えず誰彼のアパートにたむろしていた。私のアパートにもIはしょっ中やってきて、一晩中、酒を飲んではギターを弾き、歌を歌いまくっていたこともあった(住民のみなさん、すみませんでした)。 いつも穏やかで冷静なIは、みんなの信頼も厚く、当然のように主将として活躍した。小柄で色白で、ともすれば女性的な容貌からは想像もつかない体力、そして内に秘めた山への情熱。わざわざ、新潟の会社を選んだのも、山に登りたいがためだった。 最後にIに会ったのは、Iの結婚式だから、もう二十年以上会ってなかった。毎年来る年賀状には、なかなか山に行けないとこぼしていたが、ここ数年、お子さんも大きくなったからか、山行の写真を見かけるようになった。 いつかの再会を楽しみにしていたのに、それを果たさぬまま逝ってしまうとは。 Iのことだ、安らかになんて眠っていないだろう。今頃、きっと慣れ親しんだ、みちのくの山々を、それこそ軽々と巡り歩いているに違いない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|
|