カテゴリ:ある女の話:カリナ
「ある女の話:カリナ41(マッシーとのバレンタイン)」
高三のバレンタインデー。 その日を私は忘れられない。 それはきっかけだった。 二月頭の期末試験が終わった帰り道。 私はマッシーに気軽に聞いた。 「もうすぐバレンタインデーだけど、どうするマッシー? 何か二人でチョコとか作って先生に渡すぅ~?」 顧問としてってことで言ってみたんだけど、 マッシーは、その質問にすぐに答えなくて、 う~ん… って、ちょっと歯切れが悪かった。 そのうち決心したように言った。 「カリナ、私ね、タッチャンに告白しようと思うんだよ。 もしかしたら、コレで終りかもしれないけど、 このまま卒業したら、ほぼ会えなくなるし、 コレが最後のチャンスだと思うんだよね。」 「ええっ?!ホントにっ?! うん… うん、いいね!ガンバるのね?!」 「うん… まあ、ダメモトって言うか。 もともと女扱いされてないけど。 それで幼馴染に自分も戻るふんぎりがつくと思うんだよね。」 マッシーの決意を聞いて、 私は何だか興奮してきた。 二人で肩を小突きあって、 ガンバレー!ガンバルぞー!って盛り上がっていた。 バレンタインデーは、 3年生は早い期末テストの休みになっていたけど、 先生は学校だったので、 最後のランニング同好会を活動する週になっていた。 バレンタインデーの翌日の放課後が、 先生からの餞別会ってことになっていた。 バレンタインデー前日。 マッシーは私の家に泊まって、 妹の提案でチョコレートを作ることにした。 最近気付いたんだけど、 妹は彼ができてから、何となく大人びた気がする。 そのせいか、付き合いやすくなっていた。 「お姉ちゃんは彼もいないのに誰に作ってるのぉ~?」 ニヤニヤしながら妹が言う。 「いいのよ、私はお父さんとトモキにあげるんだから。 二人からってことにしてあげてもいーよぉ?」 「トモキは今年も誰かからもらうんじゃないの?」 「あ!そっか!」 スポーツ少年のトモキはモテる。 毎年誰かしらからチョコをもらっていた。 それを私達が食べる…。 弟も妹もそんな相手がいるのに私だけがいなかった。 マッシーが、トモキくんてば彼女いるんだ?って、 驚いた顔して笑う。 私は「ん~多分ね~」って、ちょっと拗ねる。 「カリナは真面目だからね~。」 マッシーが言うと妹が答える。 「お姉ちゃんは理想が高いんじゃないの? 好きになった人が好きになってくれるとは限らないんだから、 とりあえず言ってきた人と付き合っちゃえばいいのに~。」 「とりあえず…ってのが嫌なのよ!」 「お姉ちゃんって、ほーんと真面目。 そんなの、ホントに好きな人ができた時に、 いきなり上手に付き合えないわよぉ。」 あ、何か今グサリと来た。 「でもテキトーにって付き合えないんだもん。」 「付き合ってるうちに好きになるかもしれないのに~」 「そんなもんかなぁ~?」 妹の言葉は一つ一つが経験から来てる言葉のような気がして耳が痛い。 でもなぁ… それができたら苦労は無い。 「いいねぇ~、姉妹って。 私一人っ子だから、何かイイなぁ~。」 「ふふ。そう思う? でも、マッシーはもう私達の家族の中の一人みたいなもんだよ。 ねえ?」 私が妹に聞いたら、妹もそうそう。って頷いた。 マッシーはそれを聞いてすごく嬉しそうな顔をした。 妹も弟も、しょっちゅうマッシーは泊まりに来てて気に入ってたし、 弟が付き合うならマッシーみたいな子がいいよね、って家族みんなで言ってた。 弟はそう言いつつも、 アイドルみたいな子が寄ってくるのがまんざらでもないみたいで、 でも疲れる~って言ってたけど。 「じゃあ、私もオジさんやトモキくんにチョコあげた方がいいかな~」 マッシーがそう言うので、 私達はお互いの家族への義理チョコ用も少し作って用意した。 「顧問の先生にあげるなんて、二人とも色気無いねぇ~。」 ずっと共学の妹は、そういう感じが変に思えるみたいだった。 「いかにも女子校っぽいでしょ?」 マッシーが言った。 私は妹に事情を話してない。 でもマッシーはデコレーションの作業をしながら、こう続けた。 「でもね、先生は私の幼馴染なの。 ずっと好きだったから、このチョコは重たいと思う?」 妹はいきなりの質問に驚いたようだった。 そして、真面目に、ん~と考え込んだ。 「そういう踏ん切りって必要だと思う~。 当たって砕けても、そこから何か新しいことが始まる気がするし。 男って、ホラ、言われないと気付かないじゃない? 言われて意識したらシメたもんだよ、ね?」 妹が私に意見の助けを求める。 「私にネ?って言われても~! ユウカってば、言うね~。」 「お姉ちゃんじゃわかんないか~! もう!二人とも年上のくせに、経験値積んで私に教えてよぉ~!」 「恋の経験値に年齢は無いって言うか~」 「重いと感じるような男なんて振っちゃえ!」 私たちはゲラゲラ笑った。 こんなふうに過ごしてることが、 何だか不思議で楽しかった。 どんな結果がマッシーに待っているのか、 この時は考えなかった。 ただ、ひたすら先生が喜ぶんじゃないかと思っていた。 「マッシーちゃんの恋、うまくいくといいね。」 妹がマッシーがトイレに行った時にそう呟いて、 私もウンって頷いた。 その日、妹のことが少し好きになった。 前の話を読む 続きはまた明日 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年12月13日 18時31分57秒
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