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カテゴリ:ハロウィン・キャッツ
しばらくそこにうずくまるようにしていたサムは、ふいに重い体を起こして地上のブラウン氏の部屋に戻った。
裏庭では、メアリーがやってきたところだった。メアリーはサムを見つけると駆け寄ってきた。 「サムさん。アイスマン氏のこと、残念でした。でも、リサお嬢さんがもう一度雇ってくれるというので、がんばってみようと思います」 サムは、そんな興奮したメアリーの気持ちにこたえることなどできなかった。まともに返事もせず、裏庭へと進んだ。そして、グレンのノートパソコンを手にとると、枯れ草を払ってやった。 「サムさん? どうなさったのですか」 「グレンが、グレンがいなくなったんですよ。地下に綿毛になったグレンの毛が…」 「しっかりしてよ、サムさん!あの子が、あんなしっかりした子が、そんなに簡単にやられたりしないわ」 大きな肩を落としているサムに、メアリーとリサが声をかけた。 「ありがとう。とりあえず、自宅に帰ってみるよ。ここにいても、今の僕では何の役にもたちそうもない」 サムはうつろな瞳でそういうと、とぼとぼと車に戻っていった。 一夜明けて、警察からはショーンやロゼッタもブラウン氏の傘下にいたことを突き止め逮捕したとの連絡があった。ブラウン氏は企業乗っ取りをしながら、巨大な裏組織の資金調達係として一目置かれる存在になっていたようだ。 パトリックは興奮冷めやらぬ様子で、電話をかけてきた。このまま捜査が進めば、経済界や政界にまで影響の及ぶ出来事になりそうな予感だったのだ。 しかし、サムにはどうでもいいことだった。どんなに大きな事件を解決する事ができたとしても、グレンは帰ってこない。 クレアもまた、肩を落としていた。そっと斜め向かいの窓辺にすわるネコを眺めては、寂しげな眼差しで微笑みかけていたのだ。 ケイトは、そんなクレアの眼差しがたまらなかった。初めこそ、気高く知らぬ振りを続けていたが、この不思議な境遇になった同じ立場の人間が、忽然と消えうせるのは気持ちのいいものではなかったのだ。 翌日、ケイトは公園に出かけた。老ネコチェックから、グレンの情報を仕入れるつもりなのだ。お昼前まで粘ると、のろのろとチェックがやってくるのが見えた。 「ねぇ、あなたグレンの知り合いでしょ?」 「ああ、あんたかい。グレンなら、最近みないけど、どうかしたのか」 「どうやらグレンは行方不明になったらしいのよ。で、貴方なら、心当たりがあるんじゃないかと。。」 チェックはふぅっと興味なさそうにため息をついて見せたが、ケイトのまっすぐな瞳に睨まれたら知らん振りをきめるこむこともできない。 「あいつは風来坊だからなぁ。長い事公園に出てこないこともあるさ。でも、もし何処かに行くとしたら…。そうだなぁ。アンのところにネコスナックでももらいに行ったんじゃないか?わしも行きたいが、こんな老体じゃあ、あそこまで行くのは辛い。」 「どこなの?」 「ええっと、たしかコーヒー店のキューンとかって言うアメリカンショートヘアの家の近くらしい。アイスマンとか言う屋敷で働いているって言ってたなぁ」 「ありがと」 ケイトは、すぐさまアイスマン家に向かった。アメリカンショートヘアのキューンなら、コンテストで同席したことがあったので、知っていたのだ。 ネコにとっては近い距離ではなかったが、ケイトにも、今のグレンが決して普通の状態ではないと分かっていたのだ。 店の近くまで行けば、どこかに地図もあるはず…。ケイトは先を急いだ。 コーヒー専門店の近くまで来ると、ケイトは見たことのある女性を見つけた。アンだった。そのままさりげなくアンの後をつけ、ケイトはまんまとアイスマン家を見つけ出した。 隙だらけのアンは、ちょうどいい道案内になった。ケイトはそのまま屋敷に侵入し、家の周りを捜索した。 ブラウン氏やチャーリーが居ないアイスマン家には、何も怖いものなどいなかった。庭の噴水で喉を潤すと、ケイトは石畳の玄関から堂々と屋敷内に入り込んだ。そっと耳を澄ましていると、コンコンと何かを規則的に叩く音が聞こえてきた。 グレンかもしれない。 ケイトは本能的にそう思うと、すぐさま音のする方に走っていった。半開きのドアには黄色いテープが張られて、人間が自由に入れないことを示している。しかし、その部屋ではなさそうだ。ケイトはその隣の部屋のドアに飛びついてドアをあけた。そのまま部屋に入ってみると、乱雑な書類の束が大きな机の上に積み上げられてあった。 机の上には初老の男性と若い女性の写真が飾られていた。 「サイテー!趣味が悪いわね」 ケイトはつぶやいた。男性はアイスマンに間違いなかった。テレビのニュースで顔写真が出されていたので、ケイトにもすぐわかった。そして、その机の向こうにあるソファの下からかすかな物音がしていたのだ。 ケイトは周りを見回し、机の上にあがって先ほど見つけた写真立てを後ろ足で蹴り落としてみた。すると先ほどのコンコンという音がドドドっと激しい音に変った。 「グレン!そこにいるのね」 ケイトが呼びかけても、返事がない。ケイトは迷った挙句、アイスマンの部屋を飛び出して、アンの姿を探した。 アンはお茶の支度をして、リサの部屋に届けるところできれいなシャムネコが廊下を横切るのを目撃した。 「あ、ネコが!」 アンはすぐさまカートを廊下の隅に置き、ネコが駆け抜けていく後を追いかけていった。ケイトはそんなアンの姿を確認しながら、グレンの方へと誘導していった。 「これ!どこに行くの? そこは旦那様のお部屋なのに…!」 それでもアンは、ネコを見逃す事もできず、アイスマンの部屋に入った。そして、ドドドっという物音に遭遇した。アンは驚きのあまりネコを追いかけていた事も忘れて駆け寄った。 フローリングの下から、何者かが床を叩いてその存在を知らしめようとしているのが分かった。 「どうしましょう」 アンはおろおろしていたが、リサに報告に行く事を思いつき、転がるようにしてリサの部屋に向かった。その様子を机の下から見つめていたケイトはアンが出て行くのを見届けると、そっと机から抜けだし辺りを探り出した。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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サムさんは変。サムか、ミスター何とかに。
まともに返事もせず、裏庭へと進む。 の方が臨場感が出ます。 ケイトの捜索シーンはよくできています。 (July 10, 2010 07:35:00 PM)
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