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翌日。
耕ちゃんは、朝から、愚図っている。 「遊ぶ人がいなぁーいー。たあちゃんが帰っちゃったぁ。ぼくも、母さんのところに、帰りたいよ う」 ぼくは、困ったなと、思っていた。耕ちゃんは、やっぱりおんなじ年の子と、遊びたいのかもし れない。 おじいちゃん、どうするだろう。 「耕ちゃん、おいで。耕ちゃん、話し合おう」 おじいちゃんはそう言ったけど、小さい耕ちゃんと、話し合いなんてできるのだろうか。 毎日、母さん母さんと言う耕ちゃんに、ぼくは、ちょっとうんざり。 「耕ちゃん、家に帰っても、母さんが帰って来るまでは、一人で留守番するんだよ。いいのかい? あ、保育園、夏休みなかったかなあ。確か、ないと思ったがなあ。そうすると、」 おじいちゃんは、考えている。 「いいよ。お兄ちゃんがいるから」 耕ちゃんは、ぶっきらぼうに答えた。 「兄ちゃんは、夏休み中、花立にいるんだ」 おじいちゃんは、耕ちゃんの目をしっかり捉えて言った。耕ちゃんは、おじいちゃんが何を言い たいのか分かっている。ちょっと、目をそらしているから。 耕ちゃんは、おじいちゃんにはもう頼まないとでも言うように、ぼくに向かって言った。 「お兄ちゃん、今日、帰らないの?ぼく、帰りたい。一緒に帰ろうよ、ねえー」 「耕ちゃん、悪いけど、ぼく帰らない」 「何でえ?」 「何ででも、だよ」 「ねえ、お兄ちゃん。どうしてえ?」 「どうしてもっ。ぼくは、花立が好きなんだ。ほんとは、ずうーっとここで暮らしたいと、思って るほどだよ。ぼくは、ここが好きだから、だから、帰らないからね」 「でも帰ろうよぉ」 「やだよっ。ぼく、父さんが生まれたこの花立、探検したいんだ。ぼく、ここで、少し、じっとし てたい。ここで、父さんが何をしてたか、とか、どこで遊んでたかとか、知りたいんだ」 「知りたいのぉ?」 「うん、知りたい。ぼくたちの父さんだよ。耕ちゃんだって、知りたいでしょ?」 「うーん。知りたいよ、ぼくだって」 「なら、帰っちゃったら、だめじゃんっ」 「でも、ぼく帰りたいんだもーん」 「なら、一人で帰りなっ」 「やーだー」 「ぼくは、ぜーったい、帰らないからね!」 ぼくが無理だと分かると耕ちゃんは、今度はまた、おじいちゃんに助けを求めるように言った。 「おじいちゃん、お兄ちゃん意地悪してるよう」 耕ちゃんは、今にも泣きそうだ。 「耕ちゃん、ちゃんと聞けるかい?耕ちゃんが、家に帰ったらな。母さん、どうやって保育園に迎 えに行くんだい?毎日、会社を途中で、帰らなくちゃ、いけないんだよ。済みません、済みません って毎日謝りながらだよ。もし、耕ちゃんが保育園を休むと、耕ちゃんは、一日中、一人で留守番 するんだよ。それでもいいのかい?」 耕ちゃんは、うっ、うっと泣き出した。かわいそうだと思うけど、ぼくは、ここで譲れない。 「ぼく・・・、ぼく。かっ、母さんに、あっ、会いたいんだ、もーん」 耕ちゃんは、しゃくりあげながら言っている。 耕ちゃんは、そんなに母さんに会いたいんだ。 ぼくが会いたいのは、父さんだ。耕ちゃんは会いたい母さんには会える。でも、ぼくは、会いたい 父さんには絶対会えない。 「耕ちゃん、おいで」 おじいちゃんは、大きく腕を広げた。耕ちゃんは、泣きながら、おじいちゃんの腕の中に飛び込 んでいった。 耕ちゃんは、何て、可愛いのだろう。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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