のぽねこミステリ館

太宰治『走れメロス』
～新潮文庫～

「ダス・ゲマイネ」私―佐野次郎は、居酒屋で妙な男、馬場に出会った。馬場は、雑誌を作ろうと言い出した。そこで集まったのは、画かきの佐竹と、小説かきの太宰治。
　コメント。出だしから、なんというか、すごい、と思った。太宰治というネームバリューのせいかもしれないが、これはすごい、と。馬場さんの話もウィットに富んでいて面白い。太宰治が登場するあたりで、ん？と思った。滝廉太郎の名前も出てくるし。太宰さんや滝廉太郎さんの背景を知らないので、どこまで実話なのか分からない。解説を読んでみたが、そのあたりのことは分からなかった。調べたいことが増えすぎる…。
「満願」コメント。３ページの小説。話としてはわかるけれど、ぐっとくるものがなかった、というか…。難しい…。
「富嶽百景」コメント。富士山の見える茶屋にとどまるようになった太宰さん。富士に対する印象がさまざまに変わり、結婚の話もうまく進んでいき、なんだかあたたかい気持ちになった。太宰さんは、佐藤春夫さんの小説で、とんでもない人間としてかかれているそうな。そんな太宰さんに会いにきた青年と、その友人たちとの会話―河を渡る話―が面白かった。
「女学生」コメント。朝起きるときの感覚について。いろんなたとえを使いながら、懸命に伝えてきてくれる。そんな文章から、物語ははじまる。ある女学生の、ある一日。その中でいろいろと考えることを、つらつらと語ってゆく。そう長い物語でもないのに、共感するところが多く、けっこう付箋を貼った。ラストが分からない。なんなのだろう？
「駆込み訴え」コメント。とにかく、読み終わったあとにゾクゾクした。ものすごく愛している人がいる。しかし、自分はその人に憎しみを抱いている。尽くして尽くしてきたのに、あなたのその振る舞いはなに？そして、さんざんその人の恨み言を言ったあと、全てを撤回し、自分のせいにする。この心理。三浦綾子さんの『新約聖書入門』あたりを読んだ後にでもこの作品を読んでいたら、もう少し背景もおえたのかな、と思った。
「走れメロス」コメント。実は、読んだのは今回がはじめてだと思う。こんなに有名なのに…。でも、いま読めたし、楽しめた。それでいい。さて、友人のセリヌンティウスと一発ずつ殴りあうシーンでは涙。かっこいいですね。なのに、ラスト…。笑ってしまった。ディオニスの気持ちもわからないでもない。人を信じきっていたら、バカをみる。そういうことがあるのは事実だろう。でも、正直にまっすぐ生きてようとしている人たちだっている。いますよね？多かれ少なかれ矛盾と妥協することがあるとしても。正直に生きていいんだよ、と言ってもらえた気がする。って、いつものことだけれど、私は何を書いているんだろう。
「東京八景」太宰さんが、東京に出てきてからの回顧録。なんてどろどろした人生…。奥野さんによる解説が参考になる。
「帰去来」太宰さんが、お世話になっている北さんとともに、10年ぶりに故郷（津軽）へ帰ったときの回顧録。同じくお世話になった中畑さんについてもふれられている。10年間、東京であれだけのことをして（「東京八景」参照）、家族に心配かけているのだから、本当に故郷に帰るのは気まずいだろう、と思う。
「故郷」「帰去来」の後日譚。「帰去来」の出来事の直後、母親の容態が悪くなったと連絡があった。太宰さんは、妻、娘、北さんとともに、故郷に戻る。

　全体を通して。といっても、私は太宰治さんの本を読むのはこれが二冊目なので、解説をたぶんに参考にしました。
　本書は、太宰さんの中期の短編９編を収録したものです。「富嶽百景」「東京八景」「帰去来」「故郷」の４編が、随筆(随筆という言葉を久々に聞いた気がします)です。なんとも、波乱に満ちた人生ですね。
　さすがに、太宰治さんは純文学といえるでしょう。私は純文学はほとんど読まないのですが、この短編集は面白かったです。「満願」はあまりよくわかりませんでしたが、他の４編は（わかったかどうかはともかく）面白かったし、なにかしら考えるところがありました。ここ最近てんでばらばらな方向の小説を読んでいる気がします…。