カテゴリ:本の感想(か行の作家)
川上弘美『神様』 ~中公文庫、2001年~ 川上弘美さんのデビュー作「神様」を含む、9編の短編を収めた短編集です。 全体的になんとも不思議な世界で、解説では「夢」の話を援用しながら論じられていましたが、たしかに「夢」みたいという形容はあたっていると思います。ですが、「夢」といってしまうと身もふたも無いというか、本作はそのもやもや不思議な中にもちょっと涙ぐめるところがあって、その全体的な雰囲気に包まれるのが素敵な読書体験だった、といいますか。んー、まどろっこしいですね。 以下、ざっと、一編一編の紹介を簡単にして、適宜感想を書きましょう。 「神様」くまに誘われて散歩に出るお話です。 最初に読んだときは、くまが普通に登場して喋ったりしていて、不思議な印象ばかりが残りました。 「夏休み」畑のお手伝いにいって、梨をもいでいた私が、「三匹」と出会うお話です。 三匹なのです。一匹一匹別々に行動もしますが、名前などありません。これも不思議なお話で、設定についていけないのもあるのか、短いお話なのに、読了後はなんだか疲れました。 「花野」亡くなった叔父がわたしのところにやってきて、お話したり、食事したり、というお話です。 「夏休み」を読了してから、しばらく本書を読んでいなかったのですが、本作はすごく面白かったです。わたしの前に現れる叔父ですが、突然消えてしまうことがあります。最初にその理由を聞いたところで少し涙ぐみましたし、なによりラスト(そして、その直前)が素敵です。 「河童玉」わたしとウテナさんと食事をしていると、河童が現れ、彼らの国(?)に連れて行かれます。 河童が現れることにも、水の中で呼吸できることも、さも普通のように描かれています。ウテナさんも河童たちもテンション高くて、読んでいて楽しかったです。 「クリスマス」ウテナさんからいただいた壺をこすると、女性が現れます。 こちらも素敵なお話でした。痴情のもつれで死んだコスミスミコさんが、壺の中に住んでいて、出てきては、「わたし」とお話したり食事したり。本作のラストも、三人のどうでもいいような会話がものすごく素敵でした。当たり前だと思いますが、どうでもいいようなことを、笑ってお話することって、すごく幸せで素敵なことです。 「星の光は昔の光」近所に住むえび男くんとわたしの交流についてのお話です。 考えてみれば、えび男くんというあだ名以外に、不思議な設定がないのは、本作だけのような…。本作も、タイトルだけで、なんだか泣けそうな話だと予感しながら読みましたが、素敵でした。子どもらしく話すえび男くんと、大人びて話す彼がほぼ一緒に出てくる描写が印象に残っています。 「春立つ」小さな居酒屋を営むカナエさんの昔話。 伝承・伝説の世界に行っていたというカナエさん。本作も、ラストが素敵でした。 「離さない」人魚を拾ってしまったエノモトさんから、わたしが相談を受けるお話。 ちょっとホラーです。タイトルだけで、そんな予感をしてしまったのもあると思いますが。 「草上の昼食」…「神様」の後日譚。 くまは、車の運転もしてしまうようです。なんてところで笑いましたが、やはりラストで泣けました。 ーーー 全体を通して、文体はひたすら淡々としています。ですが、なぜだか少し泣けてくる。 …最近私は、裏表紙の紹介文さえ読まずに本編を読み、読んでも感想にいかさないように心がけているのですが、本書の裏表紙にはかないませんでした。まさにその通りでした。 研究室で少し話題になっていたので、読んだ本書。読んでよかったと思います。「夏休み」がなぜかやたらと疲れましたが、その後はどれも楽しく読めました。そして、全体を読了したあと、「神様」を読むと、また別の感慨がわいてきました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.05.14 22:50:04
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