カテゴリ:本の感想(た行の作家)
筒井康隆『エロチック街道』
~新潮文庫、1984年(1986年第5刷)~ ショートショートも含め、18編の作品が収録された作品集です。全部紹介するのは大変なので、印象に残った話について、つらつらと書くことにします。 「日本地球ことば教える学部」は、普段気にせず使っていて、読んでいて意味のとれる日本語が、どんどん解体されていく感じで、面白かったです。 同じく、「一について」という、漫才風に進む短編では、「一」という数字がいかにあいまいなものか、文学部出身のボケ役(?)の方がほとんど屁理屈みたいな議論で理学部数学科出身のツッコミ役(?)の方をいいくるめてしまいます。ラストの方はまるで、マイナスをかけるという計算をめぐってパラドックスみたいになっていますが、うまい考えがすぐには浮かびませんでした。二人のやりとりが面白いだけでなく、当たり前と思っていることにいかに何の疑問も抱かずに暮らしているかを気付かされるという意味でも面白かったです。 「寝る方法」と「歩くとき」の二編は、寝る(ベッドに横になり、掛け布団の中に入り、目をつむる)ときと歩くときに、筋肉をいかに動かすかを詳細に描きつつ、その際、どのようなことを考えるかというあたりを多少どたばためかして書いているのですが、なかなか面白かったです。これほどまでにいろんな筋肉の名前が並んだ文章を読むのははじめてのような…。特に「歩くとき」は、そうした肉体の動きを説明する部分と、歩く際に考える妄想(?)が次第に入り乱れるあたりにぞくぞくしながら読みました。体調にもよりますが、狂気じみた文章が割と好きなのです。 「かくれんぼをした夜」は、若干の恐怖を感じつつも、なんだか切ない気分になる一編でした。 「また何かそして別の聴くもの」は、そのタイトルから、いわゆる純文学的な作品なのかと想像していたのですが、 ○○とかけて△△ととく、その心は~という、あれでした。ほとんど意味をなしていなかったりしますが、印象的な作品でした。 いわゆる純文学的な雰囲気をもつ作品だと感じたのは、冒頭に収録された「中隊長」と「偏在」です。 「ジャズ大名」は、19世紀末に、アメリカからアフリカを目指して船にのった四人の黒人が、実はだまされていて、ボートで逃れて日本へやってくるのですが、そこの大名が彼らの音楽に聴き惚れ、みんなで熱い演奏を繰り広げていくという話。愉快な気分になれる一編です。 最後に収録された、表題作の「エロチック街道」も、そのタイトルのイメージとは違って、純文学的な雰囲気の作品でした。 さほど不快感を感じる作品もなく、全体的に面白い作品集でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.09.06 07:00:54
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