カテゴリ:本の感想(た行の作家)
筒井康隆『みだれ撃ち讀書ノート』
~集英社文庫、1982年~ 1976年から1979年に『奇想天外』に連載された分を中心とした、「讀書ノート」です。そのタイトルから、いろんな本を批判しているのかと先入観をもっていたのですが、むしろ幅広い分野の面白い(興味深い、重要な)本を紹介しています。 「作家が書評する時」という章では、本書(当時の連載)が、「SF以外何も読まない」人が多い若い世代に対して、教育的効果を及ぼそうという意図ももっていることが語られます。分かりやすかったのは、筒井さんご自身はドタバタを多く書いておられますが、それ以外にも、いわゆる固い純文学や専門書なども大量に読んでいるのだぞ、という意味もあるというところ。なにはともあれ、、その読書量と作品を見る眼に憧れます。先に、むしろ面白い本を紹介していると書きましたが、同時に、その本について的外れな批評をしている人物のことはやっつけているようなところもあります。 本書で興味深かったのは、南米の作家を多く取り上げていることです。以前読んだ『着想の技術』の中で、塙さんという編集者が、筒井さんに南米系の作家を紹介された、というエピソードがありました。「知の産業―ある編集者」というそのエッセイは、読んだときに涙がとまらなかったほどで、とても印象に残っていたので、それで本書を読んだときに注意しながら読めたのだと思います。 筒井さんの作品を読み始めた頃の記事には何度か書いていますが、私はSFというジャンルは読まず嫌いでした。が、本書を読んでいると、SFというジャンルの可能性の大きさや、その知的・実験的性格に気付かされました。SFについては、宇宙で異星人同士が戦争をする、みたいな狭いイメージを持っていたのが読まず嫌いの原因ですが、たとえば時間に関する問題、筒井さんが強調しておられる虚構性の在り方など、勉強になる部分がとても多いジャンルですね。 というんで、SF関連で興味をもったのは、次のような作品です。 まず、徹底的に時間について考察されたという広瀬正さんの著作。『タイムマシンの作り方』を紹介している回は、広瀬さんの執筆活動の時期区分とそれぞれの意義を紹介し、また広瀬さんご本人の紹介もしていて、そのラストでは涙ぐみました。 同じく時間の問題に関連して、A・カルペンティエール『時との戦い』。 本書の中で3度紹介されている、かんべむさしさんの作品も読んでみたくなりました。 …それにしても、こうやって本を読めば読むほど(そして、本書の性格にもよるのでしょうが)、自分の勉強不足を思い知らされます。小説の分野にしても、西洋史の分野にしても…。 でも、悲観はしません。これからもっともっと勉強できる余地があり、勉強の楽しさを味わえるわけですから。 謙虚な気持ちになれる読書体験でした。 (2009/03/12読了)
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