カテゴリ:本の感想(た行の作家)
辻村深月『ロードムービー』 ~講談社ノベルス、2010年~ 辻村深月さんのデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』の彼らが、過去に、あるいはその後に経験した物語、計5編が収録された短編集です。 単行本版では3編しか収録されていませんでしたが、書き下ろしの掌編を含む2編が、ノベルス版で追加されたのでした。 それでは、それぞれの物語について、簡単に内容紹介と感想を。 ーーー 「ロードムービー」 同級生のワタルを救うため、トシは二人での家出を決行した。小学6年生に進学する前の、春休みに。 ずっと人気者でとおってきたトシは、小学5年生になり、アカリと同じクラスになってから、何かが変わり始めた。アカリたちが、万引きをしていたらしいから、といって嫌っていたワタルと仲良くし始めてから、いつしかいじめの標的がトシに変わっていく。 児童会長になりたい。そう思い続けたトシだが、この状況に考えを変え始めた。しかし、いくつものひどい嫌がらせが行われるものの、ワタルの言葉で、トシは児童会長に立候補をする…。 「道の先」 塾のバイトに慣れ始めた俺は、その塾にいる生徒の一人が、先生を辞めさせる趣味を持っていることを塾長から聞かされる。そして、どうやら自分はその生徒―千晶に気に入られたらしい。 千晶の突然の呼び出しにも応じる俺は、彼女の苦しみに気付く。 しかし、ある日から彼女は塾に来なくなり…。 「トーキョー語り」 さくらは、自分の住む田舎の町にやって来た外車に乗っていた少女が、自分のクラスへの転校生だったことを知り、驚いた。東京から来たという彼女と、クラスメイトたちは仲良くしていた。…が、ある噂が広まり始めてから、彼女は孤立し始める。 さくらはその状況を気に病むが、さらに孤立気味にあった遠山も渦中に巻き込まれ…。 「雪の降る道」 大好きな『ヒロ』が亡くなってから、病気で寝込むようになったヒロのもとに、みーちゃんは毎日のようにお土産を持ってお見舞いにきていた。それは絵本だったり、四つ葉のクローバーだったり。そんなみーちゃんに、ヒロはひどい態度をとってしまう。その日、みーちゃんが失踪したという知らせを聞き、ヒロは熱があるにもかかわらず、彼女を捜しに出かけた。助けてほしい…そう、いなくなった『ヒロ』に願いながら。 「街灯」 (内容紹介略) ーーー 辻村さんの作品を読むと、どうしても辛い思いをしてしまいます。とても登場人物たち一人一人を大切にしていて、そして彼らの苦しみもていねいに描いていらっしゃるからでしょう。そして本書の中で彼らが苦しむのは、子どもの頃、私たちもきっと経験していたはずの苦しみです(もちろん、それぞれが持つ苦しみは一人一人違っていて、単純に言えないのは承知した上で書いています)。なんというか、生々しい苦しい思い出が蘇ってくる、というか。 一方で、とても素敵な物語だと思います。それは、上の理由と重なりますが、一人一人の登場人物がとても大切にされているから。そしてとりわけ本書については、どんな苦しい「道」の先にも、救いがあるから、だと思います(もちろん、その他の辻村作品も全て素敵だと思います)。 ノベルス版で新録となった「トーキョー語り」も、とても素敵でした。「ロードムービー」のアカリといい、「トーキョー語り」の一美といい、「バカ」だと思いますが、しかしこの手の人間はどこにでもいるのでしょう(特に学校などという場ではとりわけタチが悪いように思います)。もっとも、一美さんの方は多少は救いがもてますが。アカリさんも、いつか変われる日がくるのでしょうか。 一人一人のその先も気になるような、素敵な物語たちです。 『冷たい校舎の時は止まる』の登場人物たちが登場しますので、ふまえておくとより本作を楽しめると思いますが、本作から読んでも十分に楽しめると思います。 素敵な読書体験でした。 (2010/10/02読了)
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