カテゴリ:本の感想(ま行の作家)
三上延『ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~』 ~メディアワークス文庫、2011年~ テレビで観て、気になっていた作品です。マスコミが取り上げる話題書は、なかなか手に取らないタチなのですが、本書は古本をテーマにした物語ということで、とりわけ気になったのでした。 さて、本書は、北鎌倉駅のそばにある古本屋「ビブリア古書堂」の店長(怪我のため入院中)、篠川栞子さんが、古本(とその持ち主)にまつわる謎や物語を解き明かしていく、連作短編集です。 本が読みたいのに、幼少の頃に祖母の本を見ていたときにあまりに激しく怒られたせいか、本を読めなくなった青年、五浦大輔さんの一人称で、物語は進みます。 ーーー 「プロローグ」 五浦さんとビブリア古書堂のつながり、そして本を読めなくなったきっかけが語られます。 「第一話 夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)」 五浦さんが本を読めなくなったきっかけの一冊、夏目漱石の全集の『それから』には、謹呈署名が書かれていた。しかし夏目漱石の署名では、時代が違うのでありえない。もともとビブリア古書堂で買った本と思われたこともあり、五浦さんはビブリア古書堂を訪れる。 そして解き明かされる、祖母の秘密とは…。 「第二話 小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)」 ビブリア古書堂に、貴重な本を売ってくれるせどり屋(古本を安く買って高く売る)の志田さんが持ち込んできた依頼。それは、彼が大切にしている小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』が盗まれてしまったので、探してほしいということだった。そしてたどり着いた犯人が、本を盗んでいった理由とは…。 「第三話 ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)」 少し変わった雰囲気の、スーツ姿の男性が売りに来た、ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』。査定に時間がかかる旨を伝え、男性が帰った後に、その妻から電話がかかってくる。その本を、買い取ってほしくないというのだった。40年も大切にしていた本を、男性が売ろうとした理由とは…。 「第四話 太宰治『晩年』(砂子屋書房)」 栞子さんが怪我をしたのは、太宰治『晩年』の希少本を、どんな手段を使ってでも栞子さんから買おう(あるいは奪おう)としている人物の仕業だった。作戦をたて、その人物を罠にかけようとする、栞子さんと大輔さんだが…。 「エピローグ」その、後日譚。 ーーー どれも良かったですが、特に第三話が面白かったです。その過去は許されるものではないと思いますが、奥様のためにも、この夫婦は幸せであってほしいと思わされる、そんな物語でした。 本の内容だけでなく、古本にはその本自体の物語がある、というのが大きなテーマになっています。 私にとって、中学生の頃に出会った横溝正史『本陣殺人事件』が、本好きになるきっかけであったり、高校生の頃に読んだ江國香織「デューク」や島田荘司『異邦の騎士』がとても大切な物語であったりするように、誰かに読まれた本は、その内容だけでなくて、その本に対する読者のいろんな思いがあると思います(だから、たとえば『本陣殺人事件』は本屋に並んでいますが、私にとっては、自分が当時買って読んだその一冊こそが、特に大切なのです)。 ちょっととりとめのないことを書いてしまいましたが、本が好きな方なら、きっと楽しめる物語だと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.06.15 19:21:37
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