カテゴリ:西洋史関連(日本語書籍)
ジャック・ル=ゴフ(菅沼潤訳)『時代区分は本当に必要か?―連続性と不連続性を再考する―』 ~藤原書店、2016年~ (Jacques Le Goff, Faut-il vraimant decouper l’histoire en tranches?, Editions du Seuil, 2014) 西洋中世史研究の大家ジャック・ル・ゴフ(1924-2014)の生前最後に刊行された著作の邦訳です。 本書の構成は次のとおりです。 ――― はじめに 序論 古い時代区分 中世の出現 歴史、教育、時代 ルネサンスの誕生 今日から見たルネサンス 中世は「闇の時代」か? 長い中世 おわりに 謝辞 訳者あとがき 参考文献一覧 人名索引 ――― 時代区分の問題に正面から取り組んだ単著というのも、珍しいように思います。 一般向けでありながら、註も適宜ふられており、参考文献目録も充実していて、さらなる勉強を進めるためのステップアップにもなります。 本書の中で面白かった点を、いくつかメモしておきます。 まず、「中世」という概念が普及していく過程を描く「中世の出現」です。いわゆる中世に相当する「中間の時代」という表現を最初に用いたのはペトラルカ(1304-1374)、そして年代上の時代区分として「中世」という表現を用いているのはジョヴァンニ・アンドレア(1417-1475)だそうですが、「中世」という表現は17世紀まで普及しなかったそうです。また、もともとは古代ギリシア・ローマといわゆるルネサンスの「中間の時代」として暗黒時代のイメージがもたれている中世が、ハスキンズやマルク・ブロックの研究によって「創造的時代へと変貌」しますが、中世の暗黒イメージはなお存続していることが指摘されます。 そして「ルネサンスの誕生」「今日から見たルネサンス」は、19世紀のミシュレとブルクハルトのルネサンス観、そして現代の4名の研究者のルネサンス観を描きます。ルネサンスの時代を描写するのではなく、研究者がその時代をどのように捉えているかを中心にしており、たいへん興味深いです。 以上の、先人(あるいは同時代の研究者)たちの時代観を描く諸章が本書の第一部とすれば、ル・ゴフの中世観を論じる「中世は闇の時代か?」と「長い中世」が、本書の第二部を構成するといえるでしょう。ここでは詳しいメモは省略しますが、ル・ゴフは、いわゆる15世紀のルネサンスも「長い中世」に含まれ、中世は18世紀頃まで続くと主張します。 参考文献一覧を除いて200頁程度、活字もゆったりしていて訳文もていねいで、とても読みやすい一冊です。 ちなみに、中世という時代区分を論じる著作として、佐藤彰一『中世世界とは何か(ヨーロッパの中世1)』(岩波書店、2008年)はたいへん興味深く、また重要な著作だと思います。また、中世という概念については、樺山紘一「中世はいかにして発明されたか」『西洋中世研究』1、2009年、4-18頁も興味深いです。 ・西洋史関連(邦訳書)一覧へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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