カテゴリ:西洋史関連(日本語書籍)
小田中直樹編訳『歴史学の最前線―<批判的転回>後のアナール学派とフランス歴史学』 ~法政大学出版局、2017年~ 著者の小田中直樹先生は東北大学教授で、フランス社会経済史を専門としていらっしゃいます。 このブログでは、次の著書を紹介したことがあります。 ・小田中直樹『歴史学ってなんだ?』PHP新書、2004年 さて、本書は、『思想』に不定期連載された小特集「《批判的転回》以降のフランス歴史学」で訳出された五本の論文に、近年『アナール』運営委員会が発した二本の巻頭言の訳出を追加してまとめた一冊となっています。 本書の構成は次のとおりです。 ――― 0 イントロダクション(小田中直樹) 1 今日の『アナール』(ベルナール・ルプティ) 2 組織、新たな研究対象(パトリック・フリダンソン) 3 社会的なるものの主幹主義的アプローチにむけて(ジェラール・ノワリエル) 4 交錯する歴史を考える―経験的なるものと再帰的なるものとのはざまで―(ミシェル・ヴェルネール&ベネディクト・ツィンメルマン) 5 19世紀フランスにおける準幹部公務員―ある研究の中間報告―(ジャン・ルビアン) 6 巻頭言(『アナール』第66巻第1号) 7 巻頭言『アナール』、今日、明日(『アナール』第67巻第3号) 編訳者あとがき ――― 特に興味深かった論考のみメモしておきます。 小田中先生によるイントロダクションは、特にフランスの史学史の整理となっています。アナール学派は創設者のマルク・ブロックとリュシアン・フェーヴルを中心とする第1世代、フェルナン・ブローデルを中心とする第2世代、ジャック・ル・ゴフを中心とする第三世代までは第○世代として整理されてきていますが、第4世代を論じる文献を見たことがありません。ここでは、第4世代ではなく、1988年の『アナール』巻頭言の「批判的転回/危機的な曲がり角」以降の状況が、特にアナール誌上の提言をもとに簡単に描かれます。人類学、社会学など既に関係を密にしてきた以外の隣接諸科学とも学際的協力関係を重視していく姿勢や、「たえず自己を再定義すること」こそが歴史学の生命であると強調されていることが指摘されます。 第1章は、『アナール』の現状をより詳細に論じたものです。興味深いのは、先に挙げた3世代の整理(たとえばピーター・バーク『フランス歴史学革命』など)について、「時間の複雑性に注意を払うべきことを重視した思想運動[=アナール学派]を、これほど粗野な年代記の枠組におしこめるというのは、おそらく意図的ではないだろうが、皮肉以外のなにものでもない」と指摘されていることです(29頁)。 第5章は、著者が自身の博士論文執筆の概要を整理し、歴史学の営みの具体的事例を示してくれている興味深い論考です。 全ての翻訳論文について、訳者による解題が付されており、それがとても分かりやすいです。 また、目次のレイアウト、各章の扉、訳者解題のレイアウトなど、見た目にも配慮されていて、良かったです。 現時点では全てについてきちんと理解できたわけではありませんが、ずっと関心を持ってきたアナール学派あるいは『アナール』の現状についてふれることができ、良い読書体験でした。 ・西洋史関連(邦訳書)一覧へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.09.23 22:30:04
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