カテゴリ:西洋史関連(外国語書籍)
Richard Newhauser, The Treatise on Vices and Virtues in Latin and the Vernacular (Typologie des sources du Moyen Âge occidental, fasc. 68), Brepols, 1993, 208p+3 plates.
リチャード・ニューハウザー『ラテン語と俗語による美徳と悪徳についての概論』(西欧中世史料類型第68分冊)
A-VI.C
A.文献史料 VI.宗教・道徳生活の史料 C.道徳史料
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ニューハウザーの個人ホームページによれば、著者は現在アリゾナ州立大学英語学部教授で、悪徳の歴史に関する研究を進めている研究者です。本書刊行当時はテキサス州サン・アントニオのトリニティ大学の準教授だったようです。 本書の構成は次のとおりです。
――― 謝辞 序論 文献目録
第1章 ジャンルの定義 第2章 歴史的状況におけるジャンルの発展 第3章 ジャンルの批判的評価:構成 第4章 ジャンルの伝達:写本伝承 第5章 校訂版と研究 第6章 ジャンルと歴史の諸領域:一般的変化と歴史的変化
付録:引用された写本 図版 ―――
序論では、本書の目的が示されます。すなわち本書は、美徳悪徳に関する概論を一つのジャンルとして研究する初の試みであり、今後のさらなる研究のため、ジャンルの発展を詳細に描き、またこのジャンルに関する困難な面も指摘する、というのですね。 第1章の定義では、同じ叢書の『例話』や『説教』のように、明確な定義は示されません。まず、全ての概論が悪徳と美徳の両方を扱うわけではないこと、一般的に短いことなど、一般的な特徴が指摘されます。次いで、美徳や悪徳に言及する同種の史料は数多く、それら(説教、語釈集、例話集、聴罪手引きなど)との差異を指摘することで、概論の特徴を浮かび上がらせます。なお、第6章では、概論に共通する特徴として、「その散漫なあり方、[美徳や悪徳の]階層的構造、悪徳そして/あるいは美徳の体系に独占的に焦点を当てること」(p.180)と、その要点が指摘されています。 第1章で一番面白かったのは、13世紀頃からの悪徳の図式(傲慢、貪欲、姦淫、憤怒、大食、嫉妬、怠惰(superbia, avaritia, luxuria, ira, gula, invidia, accidia))を示すラテン語の頭文字、saligiaという言葉があるのですが、中世後期には、「死に至る罪を犯す」という意味をもつsaligiareという動詞もあったという指摘です。 第2章は、概論ジャンルの歴史的展開を詳細に見ていきます。ジャンルの創始者としてのエウァグリオス・ポンティコス、彼を継承するカッシアヌスらの頃までは、修道院という環境を背景とした性格のジャンルでしたが、グレゴリウス大教皇の著作は、修道院を超えて人気を博したといいます。社会背景の変化とともに、ジャンルの性格も変化していく、というのですね。
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今回も、私のような一般人ではなかなか触れる事のない外国語の論評の解説を有難うございます。
中世西欧社会における「悪徳と美徳」というと、例えばスクロヴェーニ礼拝堂のジョットの寓意画の連作などで観る事はありましたが、テーマそのものを概論として扱う、といったが学問的アプローチの手法が垣間見れて興味深かったです。 教会で伝えられた悪徳と美徳、その内容も時代によって変化したのですね。ルネサンス期を遡ってゴシック、ロマネスクの時代にはその時代様式なりの「悪徳と美徳」が存在したと想像します。 外国語の文献を、ニュアンスをしっかり汲取った上でわありやすく抄説してくれるのぽねこさんの文章は、門外漢にも楽しく読ませていただいております。有難うございます・ (2018.04.25 08:04:36)
コメントありがとうございます。
この叢書では、基本的に史料の明確な定義が示されますが、美徳悪徳に関する概論についてはなかなか定義づけが難しいようで、それ自体が興味深くもありました。 なかなか理解不足のところもあり、お恥ずかしい限りですが、いつもあたたかいコメントをいただき感謝しています。 (2018.04.28 14:22:33) |
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