カテゴリ:西洋史関連(外国語書籍)
G. R. Evans, Alan of Lille. The Frontiers of Theology in the Later Twelfth Century, Cambridge University Press, 1983
盛期中世の神学などについての研究をすすめているエヴァンズが、パリ大学教師をつとめたアラン・ド・リール(1202-1203年頃没)の思想体系を論じた一冊です。 本書の構成は次のとおりです。
――― 前書き 謝辞 文献略号 伝記的注記[本書関係人物の概要]
序論
第一部 思弁的神学Theologia Speculativa 第一章 神学のはしため 第二章 理性的神学 第三章 倫理的神学 第二部 実践的神学Theologia Practica 第四章 解決Expedimenta 第五章 妨害Impedimenta 第三部 完全な人間 第六章 人間を新しくする
結論
付録1 付録2 注 引用写本 文献目録 索引 ―――
序論は、アランの経歴と著作を紹介します。その生涯についての情報は断片的ですが、アランはパリで神学教師となり、南仏で対異端説教活動を行い、晩年にはシトー会修道院に入ります。その著作は神学的著作、異端反駁書、説教マニュアル、詩と、非常に多岐にわたっています。同時代人は、彼を「知り得ることは全て知っているknow everything knowable」(p.vii)ようだとみなしていたそうですし、また彼は「万能博士doctor universalis」とも呼ばれています。 第一章は、アランや同時代人が自由学芸をいかに見ていたか、また神学についてどう認識していたかを論じます。神学が至上のものであり、自由学芸は神学に仕えるものとして意味をもつという認識などが紹介されます。ここでは、アランの全ての著作について、校訂版と、あるものについては現代語訳の文献情報が紹介されており、有用です。
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少し、ご無沙汰しました。
先日シチリアのパレルモを訪れて、11世紀に花開いたシチリアのノルマン王朝期のビザンツ様式のモザイク画を堪能して参りました。この地はローマに近いものの、寧ろギリシャ正教の影響を受けた教会画が多く、カトリック的には「異端」に近いのではないかと思いました。 さて、12世紀の南フランスといえばカタリ派全盛の頃と思いますので、その地で敢然と異端反駁を行ったアラン師の人生は、いわば「戦いの日々」だったのではと想像致します。 その戦いの思想史が、書物となって21世紀の私達がその一端でも知りうる機会を与えられている、ということは有難いことだと思いました。 (2018.08.08 09:36:06)
コメントありがとうございます。
パレルモの状況について、興味深く拝読しました。正教とカトリックが分離した後、カトリックが正教を「異端」的と認識していたのかどうかは、面白い問題だと思います。少なくとも私が勉強している範囲で(かつ記憶の範囲で)、異端について論じている文献はカトリック世界内部を対象としてきているからです。(同時に、ギリシア正教では、「異端」にどう対応したのかも気になります。) 本書については、正直、全体を通じての十分な理解はできていませんが、私の研究関心に関する部分も多く、勉強になりました。 (2018.08.10 21:52:22)
のぽねこさん
ちょっとだけ補足させて頂きます。 パレルモの教会の特徴的なところは、同一の教会内にビザンツ様式のモザイク画と、後世のカトリック的図像学に基づいた宗教画が混在していることです。 15世紀以降カトリック教会となったそれらの寺院で、ビザンツ式モザイク画は「異教的」という理由で撤去されてもおかしくない筈ですが、それらがどういった経緯で保存され、共有されているのか、興味がありますね。 のぽねこさんのコメントを拝見して、「カトリック内の異端は排除するが、元々流派が違う対象は異端の対象とせず、装飾品として扱う」ような心理が働いたのではないか、と(根拠皆無ですが)考えてみたりしました。 (2018.08.18 08:51:13)
シモンさんへ
コメントありがとうございます。 パレルモの補足をいただき、私自身まだまだ不勉強だと痛感する次第です。たいへん興味深いですね。異端へのとらえ方だけでなく、カトリックがギリシア正教をどう認識していたか(またその逆も)、というのもあらためて気になります。 あらためて、ありがとうございました。 (2018.08.18 22:02:03) |
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