カテゴリ:西洋史関連(日本語書籍)
~名古屋大学出版会、2020年~
池上先生が初期の著作から追究されていた中世のイマジネールに関する、集大成とも言える一冊。およそ950頁(うち70頁が参考文献目録!)という、膨大な史料・研究に裏付けられた、重厚な研究です。 本書の構成は次のとおりです。
――― 序 章 想像界の歴史学
第I部 植物・動物・人間 1 薬効の在処―植物から人体へ 2 庭園の変容 3 鸚鵡と梟 4 動物観と動物イメージの変遷 5 魂の姿
第II部 四大から宇宙へ 1 地―母なる大地 2 水―水浴と温泉のイマジネール 3 火―神秘と怪異の光 4 風―翼に乗って 5 宇宙と世界の形
第III部 聖と魔 1 天使の訪れ 2 聖心崇拝 3 魔術師ウェルギリウス 4 魔女の先駆け 5 魔女のダンスとサバトの成立
第IV部 仲間と他者、現世と異界 1 権力と権威のイメージ 2 友愛の印 3 ユダヤ人人相書 4 糸巻き棒論 5 「地上の楽園」と「煉獄」
終章 想像界の構造とその変容
あとがき 註 参考文献 図版一覧 索引 ―――
本書は、大きく4部構成で各部に5章ずつの合計20章+序章と終章からなります。 本書の扱うテーマの広さは上に掲げた構成からもうかがえるとおりで、またそれぞれのテーマについて(冒頭記載のとおり)膨大な史料・先行研究に裏付けされた興味深い議論が展開されています。 全てについてはとても紹介できないので、興味深かった点のみメモしておきます。
序章は、イマジネールをめぐる理論的な話はややとっつきにくい部分もありましたが、イマジネールに関する幅広い先行研究を紹介する節は特に勉強になりました。もちろん、池上先生が師事したジャック・ル・ゴフの業績をはじめ、本ブログでもよく紹介しているミシェル・パストゥローについても紹介されています。あらためて思ったのは、中世の幽霊や怪物について研究しているクロード・ルクトゥという研究者がいるのですが、彼の業績がまだほとんど邦訳されていないんだな、ということです。(私は原著も全て未読ですが、名前は目にしていました。)原書房さんから、『北欧とゲルマンの神話事典:伝承・民話・魔術』という訳書は刊行されているようですね。
第I部では、動物観に関する部分を特に興味深く読みました。 第II部は、四大それぞれのテーマもさることながら、地面は評価が低い=地面を這う動物は評価が低い、空は評価が高い=空を飛ぶ鳥は評価が高いという、第I部の議論とのリンクもあり、いずれも興味深く読みました。(もちろん、評価は一面的なものではなく、たとえば翼にも良いイメージも悪いイメージもありました。)また、第5章では、社会や教会の中の諸身分のイメージについても考察されており、こちらも勉強になりました。
第IV部も、いずれも興味深く読みました。特に、イマジネール(想像界)という言葉から連想しやすい地上の楽園と煉獄を扱った第5章では、ジャック・ル・ゴフの『煉獄の誕生』の意義と、この著作に対する様々な批判もバランスよく紹介しており、研究動向も分かりやすかったです。
そして、膨大な注は、これまた膨大な参考文献目録を参照するつくりになっているのですが、注で言及される文献が参考文献目録に見あたらず、根拠にたどりつきにくいものがいくつかあるように思われます。あまりに膨大な文献リストなので、私の見落としがあるかもしれませんが…。
と、軽微な点もかきましたが、、とにかくどの章も興味深いテーマで、また全体的に関連をもった構成となっており、まさに池上先生によるイマジネール論の集大成です。 近年、社会史やイマジネールへの歴史が下火になっていることを嘆いていらっしゃるあとがきも興味深いです。 (2020.05.30読了)
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Last updated
2020.06.20 22:29:52
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