島田荘司『『改訂完全版 羽衣伝説の記憶』
(島田荘司『島田荘司全集VIII』南雲堂、2021年、605-744頁)
吉敷竹史シリーズの長編作品。吉敷さんと元妻の加納通子さんの出会いや別れ、そして通子さんの悲しい過去の事件が明らかにされます。
それでは、簡単に内容紹介(2007年の記事をほぼ再録)と感想を。
※どこまでをネタバレと定義するか微妙ですが、割とストーリーを書いてしまうので、未読の方はご注意ください。
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1990年12月28日。
銀座の街を歩き、小さな画廊に入るのが好きな吉敷は、一つの彫金作品に目を留めた。Tの字で、Tの根本を軸に回転する橋をかたどった「羽衣伝説」という作品だった。これは、通子が作った作品に違いない、と思った吉敷は、店の主に出品者について質した。結局、作者については分からなかったが、通子の作品だと信じた吉敷は、羽衣伝説で有名な静岡の、三俣の松原を訪れた。…しかし、そのときは徒労に終わった。
年が明け、吉敷はある事件の担当になった。ホステス殺害の現場にいたため容疑者とされた男は犯人ではないと確信した吉敷が事件を調べなおしているうちに、天橋立に関係者がいるらしいことが分かる。そして、天橋立を訪れた吉敷は、事件解決後、そこで加納通子と再会する。
再会を喜ぶ二人だったが、離婚のこと、通子が結婚を恐れている理由のことに話が及ぶと、二人は暗い気分にならざるをえない。そこで加納通子が語った過去の事件は、彼女が結婚を恐怖するのもうなずけるような、壮絶な事件だった。
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これは面白かったです。天橋立、加納通子さんと吉敷さんの過去といった断片的なキーワードと、好みだという印象は残っていましたが、あらためて再読して、楽しめました。
前回感想を書いたときは、ホステス殺害事件にはほとんどふれていませんが、今回はかたくなに自供を繰り返す男の姿が印象的でした。
通子さんとの思い出のなかでは、スリッパのエピソードが特にぐっときました。フランス料理を二人に食べにいったこと(そして普段の吉敷さんはずっとかつ丼かラーメンを注文していること)も、吉敷さんの人となりがしのばれ印象的でした。
全集あとがきで本作のタイトルをめぐる思い出が書かれていますが、「記憶」で貫いてくださった島田さんに感謝です。タイトルだけで印象が全く変わってしまうということがよくわかるエピソードです。
(2021.02.13読了)
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