夏目漱石『吾輩は猫である』
~新潮文庫、1980年改版~
あまりにも有名な作品ですが、夏目漱石の最初の小説というのはこの度知りました。
教師の苦沙弥先生のもとに迷い込んでそのまま飼われることになった猫が、先生のもとに集まる人々のよもやま話や自身の冒険譚などを語っていきます。
伊藤整さんによる解説にもありますが、『坊ちゃん』のように筋がはっきりした長編ではなく、本当にいろんなよもやま話や冒険など、数々のエピソードの寄せ集めのようなかっこうですが、それがユーモアや皮肉たっぷりに描かれていて面白いです。
平気でうそをつきながらもなぜか憎めない迷亭さん、物理学の博士論文に挑戦中の寒月さん、詩を愛する東風さんなど、印象的な人々が苦沙弥先生の家を訪れて話をします。一方、苦沙弥先生たちに対立する存在として、近所で先生を悪く思っている財産家の金田氏の妻鼻子さんたちや、先生をからかうことに情熱を燃やす向かいの学校の生徒たちがいます。その対立のシーンも読みどころです。
いつまでも名前を付けてもらえない猫自身の冒険も面白いです。近所の上品な家に買われている三毛に思いを寄せてみたり、大柄な黒と上手に対応してみたりと、最初は近所の猫との交流も描かれます。ほかに特に印象的だったのは、猫が運動をはじめたと語る場面です。カマキリ狩り、セミ狩り、木登りなどなど、していることはなるほど猫がしそうなことですが、ユーモアあふれる語り口で楽しく読めました。
世の中への批判(『ホトトギス』への連載第1回は明治38年ですが、今にも通じるものがあるのがなんとも…)や言葉遣い(なるほどの「ナール」が書かれています!ツクツクボウシもおうしつくつく)も興味深いですし、なによりユーモアあふれる語り口を楽しく読めました。
子どもの頃に一度(おそらく子供向けの縮約版を)読んだことがありますが、この度あらためて読んでみて良かったです。
(2022.07.27読了)
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