『私の名前はキムサムスン』(2005年)MBC
《娯楽もグローバル化》昨日、70歳の男性が私に言いました。野球を見るのが大好きで、昔はジャイアンツの選手の背番号を見ると誰だかすぐ分かったが、今はニューヨークヤンキースの試合の中継に夢中になっている。今はジャイアンツの選手は分からないけど、ヤンキースの選手は背番号を見れば名前が分かるよ。インターネットが普及し、映像も文章も、世界のどこからでもアクセスできるようになり、娯楽もグローバル化の時代を迎えました。日本で一番ではダメ。世界のライバルと戦うレベルでないと。仕事柄、韓国ドラマにはまっている方によく出会うのですが、一番いい作品を聞くと、たいていの人があげるのが2005年に韓国で放送されたドラマ『私の名前はキムサムスン』。えっ、ヨン様の『冬のソナタ』じゃないんだぁ。調べてみると、韓国で視聴率50%を超えて、「キムサムスンシンドローム」と呼ばれる社会現象を起したという、このドラマ。ドラマの直後、ヒロインの恋人役をつとめたヒョンビンのファンサイトは、会員数だけでも16万人になったそうです。16万人!今では日本でもファンサイトが立ち上がり、ヒョンビンの来日時は、女性ファンが殺到しました。韓国社会を動かし、そして日本人の心まで動かすこのドラマはいったいどういうものなのか。見てみました。《『私の名前はキムサムスン』の魅力》あ~、はまってしまいました。全部で16話、16時間。映画8本分です。でも、面白い!恋も叶わず、太めで、職も失い、もうすぐ30歳を迎える主人公が、「私がいるのによくも浮気を・・・、 精米店の三女、サムスンをなめたらどうなるか、見せてやる!」ではじまる、このドラマの魅力を、3つの素材と3つの調味料に分けて、私なりに、分析してみたいと思います。主人公キムサムスンの職業はパティシエなので。[魅惑の3つの素材]1、主役が社会で働く女性ちょうど同じ時期に日本でも『Anego』(2005年4月~6月、日テレ)というドラマが流行りました。主役が篠原涼子さんで、30歳過ぎたキャリアウーマンが会社の後輩の男性と恋に落ちるという話。今でも、篠原さんは理想の上司の女性部門で1位ですね。主役が、自立した女性で、しかも恋人役が年下。これは、まだまだ文化が保守的である韓国のドラマでは、大変珍しいそうです。ストーリーの大枠は、金持ちの男と普通の女の子の恋愛、家族の愛、病気、家族の死、別れ、失敗やトラウマなど、よくある話なのですが、この主役の設定の仕方が物語をより面白くしています。2、リアリティ最近日本でも日常を描いた小説が流行っています。ブログもそうです。個人のささやかな嬉しいことや悲しいことが、注目されています。ただ、リアリティを伝えるというのは、難しいことです。日常をそのまま、ずらずら書いても面白くないですから。ドラマを作る時も、日常のエッセンスを抽出して描く必要があります。誰でも共感できる、個人の日常の最大公約数をドラマに登場させる必要が。その点、この作品は実によくできています。例えば、主人公の女性の、よくありがちな妄想の数々、好きになった時の積極性、きれいになるための努力を怠ってしまう、家に帰ると母親に早く結婚しろと言われる、お姉さんは自分より優秀、元カレはエロくて変態に見える、恋人の元カノは自分より魅力がある、職場の後輩はウブ、恋人の靴下の匂いをかぐ。年下でボンボンである恋人役の、決して強くない姿、強がって壁を殴ったが、次の日、手に包帯を巻いている、5,000万ウォンの小切手を目の前で破ってゴミ箱に捨てたが、次の日、誰もいないところで、ゴミ箱をあさってつなぎ合わせる、女性から見ると冷たいと思う行動、恋人だけではなくて、仕事も大事、親に見捨てられると困る、元カノも気になる。女性から見てウブだと思う、ちやほやされて育った男性の一面、持ってきたのが、ただのワカメスープではなく、ウニ入りわかめスープだと説明する、三段腹を枕にして寝るのが好き、「手もブスだ」と言う、気のない女性に見つめられると、噴出してしまう、すぐ、好きになった?と聞く、恋人の元カレも、元カノの今の恋人もライバル、ブタのぬいぐるみが恋人に見えてしまう、夜中に一人でブタのぬいぐるみに話しかけたり、殴ったり、首を絞めたり。また、主人公の母親の、男の子がいない家に娘の恋人が来て寝顔を見て「可愛いわね」とつぶやくシーン。全体として、20歳代後半になれば、本気で愛して今でも思い出に残る元カレ、元カノが存在すること。携帯電話や、携帯メールの使い方。3、コメディこれは主役のキムソナの演技がなかったら成り立たなかったですね。そしてこのコメディ部分が視聴率50%を超えた一番の要因ではないでしょうか。現代人は、基本的には楽しくないと、引き付けられません。主人公の女性が、ムカついたら殴る蹴る、罵倒する。お酒を飲んで帰る際に、トイレが我慢できなくなって道の脇でしてしまう、恋人の顔に、ご飯つぶを噴き出す、誘惑するためのちょっとずれたダンス、嫌なことを忘れるために一人で歌って踊るカラオケ、恋人と家族と一緒に楽しく歌って踊るカラオケ。[素材を引き立てる3つの調味科]1、音楽音楽は世代を超えますね。昔韓国で流行った音楽が多く出てくるので、普段は恋愛ドラマを見ない層も見入ってしまう。外国人である私が聞いても、いい音楽ばかり。2、文学ミヒャエルエンデの『モモ』、アルフレッド・D・スーザの詩、などが登場、教養の高い層の心も引き付ける。3、パティシエという主人公の職業主人公は、教育熱心な韓国人らしく、貧乏な家ながらもフランスでパティシエの真髄を学んでいる。食べることや食べ物を作ることの崇高さ、そこから得られた生き方などを教えてくれる。抽象的な話を挟むことで、ストーリーのリアリティが、より増しますね。主役のキムソナさんのインタビューを見たり、読んだりしてみると、このドラマは、俳優やスタッフの間のチームワークが、ものすごく良かったようです。全員が、心から、その役に成りきったからこそ、奇跡的な成果を出すことができたのですね。キムソナさんやヒョンビンの他の作品も見てみましたが、やはり、この『私の名前はキムサムスン』での演技が一番です。《私個人の韓国での経験より》私は2001年の夏に、ソウル大学と延世大学に行きました。印象は、韓国の方は大変義理固いということと、若者が、日本の漫画をよく読んでいて、よく知っていること、女性は人前で話すのが苦手だというのと、男性はがっちりした男らしい骨格の人が多いので、逆に背がすらっとしている男性がもてはやされ、そういう日本人や日本の芸能人は大変人気があったことなど。何かのセミナーで、私が、今は外資系金融機関のトップセールスマンになっている先輩の女性と話していると、韓国の男子学生が、韓国でも、女性が、年下の男性と付き合うのは珍しくなくなり、1歳上の女性を見つけるといいと言われている。と教えられたのを思い出しました。社会の変化に合わせて、そして、その一歩先を行くドラマを作ったことが、受け入れられたんですね。韓国の人達が、自分もこういう生き方をしようって。韓国ドラマのファンの方は、韓国人の気持ちをよりよく理解できるようになっているのではと思います。19世紀、日本に黒船がやって来た時、ペリーは天狗のような顔で人を食べるという話が流れていたそうです。相手の国の人を理解するということは、大変重要なことですね。政治の世界では、東アジアの平和と経済の発展のために、日中韓賢人会議の設立が提唱されています。文化の交流は、その国の人達同士の相互理解につながります。ドラマが韓国の社会を動かしたように、文化は、世界を動かせるはずです。韓ドラファンの方、自信を持って、東アジアの平和のために、ファイティン!《恋も叶わず太めな30歳の役を演じるキム・ソナの一生懸命さに、年下で金持ちでイケメンのヒョンビンが、めちゃくちゃにされる姿も見もの。シリアスなのに、つい笑い続けて見てしまうドラマです。こんな面白いドラマ、よく作れましたねぇ。》