映像四郎の百人斬り

　本を、借りて、新宿駅に向かおうと、

　新宿中央公園を歩いてると、

　砂場に、円柱の「クジラ」のオブジェが、

　横たわっており、すすけた感じで、ラクガキもあり、

　口の中には、子供たちのつめた砂で、

　いっぱいになっているけど、

　何かの美術書っぽいカタログで、見た記憶があり、

　名のある人の作品のような気がしたが、

　子供たちとの、過度な戯れの結果、

　日常に、すっぽり収まっている。

　たしか、写真では、見開き２ページに、

　どーんと、出てて、フォルムのいい、

　大きなクジラに、見えたが、

　イメージさせられたものよりも、

　実際は、小さく、その前の、ベンチで、

　大江健三郎の「取替え子」という、

　飛び降り自殺した伊丹十三と、

　著者の関係が、モデルの小説を、

　読んでいたら、

　おとうちゃんと、子供ふたりが、

　砂場で、相撲をはじめ、

　小さい弟は、枝をもって、行司をやりだし、

　掛け声は、犬の雄たけびのように、

　原始的な、かわいさに満ちているが、

　ひまを見つけて、私の近くに、立っている鉄柱を、キンキンと、

　棒きれで、叩き、サルのおもちゃのように、威嚇するのだった。

　大江氏のお話は、シュールで、

　死んだ友人の送ってきた、

　肉声入りのカセットテープと、

　対話などして、ずれはじめており、

　高齢の母親が、

　幻と、お話するのも、

　テレビと、お話するのも、同じだ、と

　過激な発言をして、

　主人公は、カセットテープという、

　回路を通した、死者を、生者と感じ始めるって、

　激しい状況が、出現しつつ、

　映像も、幻といえば、そうなのかなぁって、

　確かに、ハムの画像を見せても、犬は食わないしなぁって、

　蚊に刺されだしたので、帰ろうと、歩き出すと、

　笹の葉さらさらな、「七夕」ゾーンが、存在し、

　きらきらな、折り紙が、やたらと、とりつけてあり、

　子供の字は、下手な分、力強さもあって、

　願い事をよんでいくと、

　「ちきゅが、きれいになりますように」など、

　みみずが、のたっくており、

　何故、「う」が、抜けてるんだと思いつつ、

　「う」が、抜けてることで、逆に、衝撃を受け、

　他には、「まんがに、なりたい」など、

　何故、「か」が、抜けてるんだと思いつつ、

　「か」が、抜けてることで、更なる、電撃を受け、

　他には、「びーるをのみたい」など、

　担任の先生と思えない、のたくりで、

　記入されており、その早熟さに、感銘を受け、

　よろよろと、歩いていくと、

　広い空き地の柵の、張られた線に、大量の洗濯物が、

　風になびき、浮浪者たちは、大草原の小さな家を、

　勝手に、実地しており、水道で、水浴びまでしていた。

　見あげれば、樹々の上空、視界に収まらない、威圧感をもって、

　東京都庁が、そびえていた。