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「アリとキリギリス」でお馴染みの働き者のアリだが、実は彼らの 7 割しか働いておらず、1 割は一生働かないという。なぜか――進化生物学者の長谷川英祐さんが、ご自身の実験結果や最新の昆虫学の研究成果を報告し、人間社会に当てはめている。 アリやハチといった社会性を備えたムシは、しかし脳の構造が単純であるため、環境に合わせて個体が臨機応変に仕事を変えるわけにはいかない。そこで個体に個性を持たせて、仕事をしやすい個体群(腰が軽い)と、なかなか仕事をしない個体群(腰が重い)に分かれている。腰が重い方のアリが、通常は働いていないのである。しかし、「『そのとき』が来たらすぐ対応できる、働いていないアリという『余力』を残していることが実は重要なのかも」(33 ページ)しれないと長谷川さんは推測する。 また、アリやハチでは女王だけが卵を産み、あとのメスたちはせっせと卵を育てたり、えさを採ってきたりするだけです。ヒトから見ると利他的に見えるこの行為も、じつはヒトとは違う単数倍数性のゲノムを遺伝するアリやハチの場合、女王の卵を育てることが自分の遺伝子を色濃く残した子孫を残すことに繋がるという。 面白いのは、「多数の細胞が集まった個体を 1 つの「社会」と考えると、その進化と維持も血縁選択や群選択、長期的適応度の観点から解釈できる」(159 ページ)とみる、第5章の部分だ。つまり、器官に分化した細胞は子孫を残さない働きバチで、子孫を残せる唯一の女王は生殖器官だと考えるのである。そう考えると、すべての細胞は生殖器官のためにせっせと働いていると見ることもできるし、休んでいる細胞もあるだろう。 それにしても混注の研究は重労働らしい。「実際は 1 日に 7~8 時間の観察を 2 ヵ月以上続けるというハードな研究で、観察を担当した 1 名は疲労から途中で点滴を打ちながら観察を続け、血尿まで出した、という大変な実験」(63 ページ)だったという。一般人でも読みやすいようにかみ砕いて書いてある本書は、普段あまり縁の無いムシの研究に関心を誘ってくれる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.01.31 17:09:04
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