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2023.05.07
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カテゴリ:書籍
プロジェクト・ヘイル・メアリー 下巻

プロジェクト・ヘイル・メアリー 下巻

 〈ヘイル・メアリー〉はいつ見てもハインラインの小説から抜け出してきたような姿をしている。銀色に輝くなめらかな船体、先が尖った船首。大気とかかわる必要のない宇宙船が、なぜそんな格好をしているのか?(171ページ)
著者・編者小野田和子=著
出版情報早川書房
出版年月2021年12月発行

ぼくは、寒冷化する地球を救うために、片道切符のヘイル・メアリー号に乗り込み11.9光年離れたタウ・セチにやって来た分子生物学者だ。タウ・セチで偶然出会ったロッキーの奇妙な共同研究が始まる――。
グレースの科学知識とロッキーの技術力を合わせれば、かならず危機を救えると信じ、試行錯誤を繰り返し、けっして諦めず、ときには生命の危機に晒されることもあった。
プロジェクト・ヘイル・メアリーは完了し、2人のその後は‥‥。

エリダニ400からアストロファージの謎を追ってやって来たエリディアン、ロッキーは優れたエンジニアだった。エリディアンは、29気圧の
視覚はないが、聴覚は鋭く、計算力も記憶力も人類を凌駕していた。一方で、宇宙線や相対性理論の知識はなく、コンピュータ技術ももっていなかった。
グレースがもつ科学知識と、ロッキーの技術力でもって、タウ・セチ星系でアストロファージを補食する微生物を発見し、タウメーバと命名する。タウメーバを採取するためにヘイル・メアリー号はボロボロになり、2人とも大怪我を負うが、タウメーバを金星やエリドの大気中で繁殖できるよう品種改良に成功する。
品種改良したタウメーバ8.5を携え、ロッキーの宇宙線からアストロファージの補給を受けたヘイル・メアリー号は地球への帰還軌道へ、ロッキーの宇宙船はエリダニへの期間軌道に入った。ところが、タウメーバ8.5はキセノナイトを透過する能力を獲得していた。ロッキーの宇宙船に残っていたアストロファージはタウメーバに食い尽くされ、航行不能に陥る。ぼくは、タウメーバ8.5をカブトムシに乗せて地球へ射出すると、ロッキーを救出するために軌道を反転した。
ぼくは、ロッキーとともにエリダニ400に入った。そこで、エリディアンの子どもたちを教えながら暮らし、太陽の高度が戻ったという知らせを聞く。

ロッキーの姿形から連想したのが、長谷川裕一のSF漫画『マップス』に登場するガッハ・カラカラ――さらに遡ると、E.E.スミスの「レンズマン」シリーズに登場するトレゴンシー。地球より高重力環境で生活し、視覚がないというリゲル人だ。
ハインラインの作品や「超人ハルク」「ロッキー」に触れるシーンもあり、同世代の読者はニヤリとすること請け合い。

本作では、いわゆる「悪人」が登場しない。登場人物の一人一人が、自らの職務を全うするために奔走する。冷酷無情なペトロヴァ対策委員会のエヴァ・ストラットも、最後にその思いを語る。人類存亡の危機に遭って、誰一人諦めない、くじけない、科学に全幅の信頼を寄せている。
ヘイル・メアリー・プロジェクトは完了し、主人公は、本来やりたかった仕事に戻ることができた――ただ、地球を出発する前とは少し違った形で――プロジェクトを通じて、人と出会い、想いを交わし、そして自分を変化させていく。
本作品は、良い意味で、スペースオペラのワクワク感と科学に対する信頼感を再認識させるSFである。






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最終更新日  2023.05.07 18:02:30
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