47.キッス・オブ・ファイア(Kiss of Fire)
【現代の標準的なレシピ】 (容量はml) ウオッカ(25~20)、ドライベルモット(15~20)、スロージン(20)、レモンJ2dash ※砂糖でグラスをスノースタイルに 【スタイル】 シェイク
終戦後、飲食店やバーの営業は占領軍最高司令部(GHQ)によって禁止されました。その再開が許可されるようになったのは1949年(昭和24年)5月です。バー営業が解禁されると、業界団体やメーカー主催のカクテルコンクールも徐々に開催されるようになりました。
「コンクール」開催には、バーテンダーの技量向上とバー業界全体の盛り上げという2つの目的がありました。こうしたコンクールの上位入賞者のなかから後に、業界の指導的役割を担う方々が輩出していきます。
残念ながら、こうした昭和20年代のコンクールで優勝したカクテルのなかで、現代までスタンダードとして生き残っているのは数えるほどしかありませんが、この「キッス・オブ・ファイア」はその「数えるほど」の一つとして現代でも受け継がれているカクテルです。
「キッス・オブ・ファイア」は1953年(昭和28年)6月、名古屋・御園座で開催された第5回「オール・ジャパン・ドリンクス・コンクール」(日本バーテンダー協会主催)でグランプリに輝いたカクテルです。6千もの応募作品があり、最終審査に残った8点の中から栄冠に輝きました。作者は、東京(銀座)のバーテンダー・石岡賢司氏です(出典:「日本バーテンダー協会五十年史」1980年刊。※コンクールの開催年を1954年とか1955年とか紹介しているカクテルブックやサイトが目立ちますが、正しくは1953年です)。
ちなみに、ほぼ業界人だけで審査する近年のカクテル・コンクールとは違って、この「オール・ジャパン…」の審査員には作家・永井龍男、漫画家・横山隆一、女優・丹下キヨ子ら業界人以外の方も加わっているのが目を引きます。やはり飲み手である一般人を審査員に加えるのが本来の姿でしょうね。
「キッス・オブ・ファイア」は前年の1952年に米国でヒットしたルイ・アームストロング(Loius Armstrong)の同名曲、ならびに同じ年の日本で、ペギー葉山が歌ったカバー曲「火の接吻(Kiss Of Fire)」にヒントを得て考案され、カクテル名も曲名がそのまま付けられたと伝わっています(出典:Wikipedia日本語版ほか)。
「Kiss Of Fire」という曲はもともと、アルゼンチン・タンゴの名曲「エル・チョクロ(El Choclo)」を英訳詞にしたカバー曲で、1903年、アンヘル・ビジョルド(Angel Villoldo)という人が作詞・作曲したものです(「El Choclo」自体は「とうもろこし」という意味)。日本には1937年にレコードで初めて紹介されました(出典:souldiva.tripod.com)。
石岡氏は残念ながら、この受賞の数年後に早世されたといいます。その経歴も詳しいことはほとんど伝わっていませんが、最近ネットを検索していて、面白い情報を目にしました。石岡氏の孫にあたる宇山祐二さんという方が、2015年に東京・学芸大学前でバー(店名は「Tricky's」)を開き、「キッス・オブ・ファイア」を看板カクテルにしているそうです(出典:Wikipedia日本語版)。
さらに、宇山さん自身が、Mixiの「Kiss of Fire」というコミュニティ・ページでおじいさんのことに触れている一文にも出合いました。「祖父は高校卒業後、歌舞伎の世界に入りました。そこで認められ、師匠に『養子になれ』と言われたのですが、父親に反対されて歌舞伎の世界をあきらめ、バーテンダーの世界へ転じました。すぐに力を発揮し、(カクテルコンペに出した)キッス・オブ・ファイアは日本で1位となりました。その後すぐ、医療ミスで20代で亡くなったと聞いています、短くて太い人生でした」と。機会があれば、宇山さんに一度会ってみたいですね。
なお、日本国内ではそこそこ知名度があるカクテルですが、欧米のカクテルブックで収録している例は、現時点では確認されていません。
【確認できる日本初出資料】 「カクテル小事典」(今井清&福西英三著、1967年刊)。レシピは「ウオッカ、スロー・ジン、ドライ・ベルモット各3分の1ずつ、レモン・ジュース2dash。砂糖でスノー・スタイルにしたカクテルグラスに」となっています(これが、おそらく石岡氏のオリジナル・レシピでしょう)。
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Last updated
2021/07/04 12:09:51 PM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。 ▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。