欧米のカクテルブックで「ミリオネア」が紹介されたのは、現時点で確認できた限りでは、英国で1919年に出版された古典的名著「ABC of Mixing Cocktails」(ハリー・マッケルホーン<Harry MacElhone>著)が最初です。そのレシピはウイスキー・ベースで、「ライ・ウイスキー3分の2、卵白1個分、グレナディン・シロップ1tsp、オレンジ・キュラソー2dash(シェイク)」となっています。
誕生の時期については、米国の禁酒法時代<1920~33>と紹介する海外の専門サイトもいくつか見受けられますが、上記の「ABC of …」に掲載されていることからも、少なくとも1910年代後半には登場していたことは間違いありません。また誕生の場所については、「ロンドンのリッツ・ホテルのバーで考案された」とも言われていますが、裏付ける史料等は伝わっていません。
著名なカクテル研究家のデヴィッド・ワンドリッチ氏は「1925年までのある時期に(ロンドンの)リッツ・ホテルで考案された」(出典:http://www.esquire.com/food-drink/drinks/recipes/a3759/millionaire-drink-recipe/)と書いています。しかし、マッケルホーン自身が「ABC of …」の中で「ロンドンのリッツ・ホテルのバーのレシピを参考にした」と付記していることからも、少なくとも1910年代後半には、この同ホテルでウイスキー・ベースの「ミリオネア」が提供されていたことは間違いないでしょう。
・「Cocktails」(Jimmy of the Ciro's Club著、1930年刊)米
ライ・ウイスキー3分の2、グレナディン・シロップ3分の1、キュラソー2dash、卵白1個分(シェイク)
・「World Drinks and How To Mix Them」(William Boothby著、1934年復刻版)米(ベースの違う「ミリオネア」3種と、「ミリオネア・ロイヤル」と称するカクテルを紹介。スタイルはいずれもシェイク)
ミリオネアNO.1=ウイスキー2分の1ジガー、グレナディン・シロップ4分の1ジガー、キュラソー2dash、卵白半個分
ミリオネアNO.2=ジン2分の1ジガー、アブサン4分の1ジガー、アニゼット1dash、卵白半個分
ミリオネアNO.3=ラム3分の1、アプリコット・ブランデー3分の1、スロー・ジン3分の1、グレナディン・シロップ1dash、レモン・ジュース1tsp
ミリオネア・ロイヤル=ウイスキー2分の1ジガー、グレナディン・シロップ4分の1ジガー、アブサン2dash、キュラソー1dash、卵白半個分
・「The Artistry of Mixing Drinks」(Frank Meier著、1934年刊)仏
ライ・ウイスキー2分の1、ペルノー(アブサン)1dash、グレナディン・シロップ1dash、卵白半個分(シェイク)
・「Mr Boston Bartender's Guide」(1935年初版刊)米
ライ(またはバーボン)・ウイスキー45ml、キュラソー15ml、グレナディン・シロップ4分の1tsp、卵白1個分(シェイク)
・「The Waldorf-Astoria Bar Book」(A. S. Crockett著、1935年刊)米(※「マティーニ」のバリエーションとして紹介している珍しい例)
ジン3分の2、ドライ・ベルモット3分の1、グレナディン・シロップ on Top、レモン・ピール(ステア)
・「The Café Royal Cocktail Book」(W. J. Tarling著、1937年刊)英
ジャマイカ・ラム3分の1、アプリコット・ブランデー3分の1、スロー・ジン3分の1、グレナディン・シロップ1dash、ライム・ジュース1個分(シェイク)
・「The Stork Club Bar Book」(Lucius Beebe著、1946年刊)米(スロー・ジンをベースとする珍しいレシピ)
スロー・ジン約53ml(1+4分の3オンス)、ジャマイカ・ラム15ml、アプリコット・ブランデー15ml、グレナディン・シロップ1dash(シェイク)