なぜ膜蛋白質の研究がなかなか進まないのかについて,イロイロ考えてみた続きです.もともとの話題は,11日の飲み会が発端です・・・さて,次は,大学院における特有の問題,とくに学生さんの事情について書き散らしてみることにします.
大学院で,膜蛋白質の構造生物学的研究のような中長期的にハイリスクな研究を行うとき,教員が必ず直面するジレンマがあります.それは大学院の研究室における教育方針または教育ポリシーに関連してくるので,PIの先生方のアイデンティティーにも関係する重要な問題点です.具体的は,どういうポリシーで指導を担当する大学院生に対するテーマを設定するか?という問題点に発展します.
Piyotaの知る限り,先生によって,大学院生にテーマを与える時のスタイル(またはポリシー)には以下の2つに大別できると思います.
【1】 大学院生を数人のチームとして編成し、本質的には同じ一つのテーマを分担して行わせる方法。
(欠点)本来は研究におけるリスクを下げるためにこの方法を採用したのだが,リターンがあった場合には成果もやまわけとなるため、学生の達成感が少ない。そのため当事者のモチベーションを高いままに維持するのも,実験における技術レベルを維持するのもいずれも困難を伴う。同時に,誰かがやるだろう,という当事者意識の希薄さが,研究におけるミスにつながる可能性も大.稀にこの方式で成果が出る場合,成果の取り合いに類する問題が生じる.これらについて下記の解決策を適応すると,PIの人望ポイントが下がる危険性もあり.
(解決策)大学院なら博士課程学生またはポスドクまたはスタッフの徹底的な優遇と,逆に一部のスタッフの納得ずくの献身と,(入れ替わりの激しい)卒研生・修士学生に対する冷酷な使い捨て制度の徹底によって,成果の取り合いの問題は回避できる.
一方,
【2】一人一人の独立性を尊重して,各自に1テーマを与える方式.具体的には,前任者や同じラボ内の同僚・先輩後輩の受け持っているテーマとは,ゆるい連携性を保ちつつも,基本的には一人1テーマという方式(たとえば一人1蛋白とか一人1遺伝子とか一人1ドメインとか)
基本的には,Piyotaの教育方針はこっちです.これにももちろん問題点があります.
(欠点)現実問題,「スケールの小さいテーマ」しか設定できない.上記の方法では,1テーマに費やされるマンパワーの上限(=1人力)が決まっている.卒業までの年限の間に,それなりの研究成果が出ないと,学生が卒業できない.たとえば修士は,修論研究の他に,就職活動+中間発表+修士論文書きを二年間の間に行わなければならない.博士は論文投稿が必須であることが多い.各大学院のシステムにもよるが,学位論文提出時にピアレビューがある英文誌に一定数(うちでは1報)の受理済み論文が必須.こうした場合,実質2年である程度の結果が見込めるテーマ設定になってしまう.研究テーマのスケールをどのように定義するかはともかく,直感的には10年越しのテーマ>2年で絶対結果が保証されているテーマ,だと思われ・・・.
余談ですが,しかも又聞きで恐縮ですが,関西のほうの某大学院大学の先生が,上記二種類の教育方針をいみじくも「モーニング娘。方式」(=1)と「SMAP方式」(=2)と表現した,と伺いました.前者はチームワーク+セット販売重視,後者はソロ活動+個人技重視,といったところでしょうか.
こうして考えると,
1.【2】の方式では膜蛋白質の息の長い研究は無理である,
2.リスク覚悟で【1】をしないといけない,
3.その場合,ラボ所属のすべての大学院生が等しくhappyになるとは限らない,
ということになります.う~ん,こりゃなかなか大した覚悟がいるなあ・・・・やれやれ