ケーキ!ケーキ!ケーキ!
ボクが育った家庭は、母以外はすべて男所帯だったので、母はボクにいつも口酸っぱく、「これからの男は家事もできなければダメ」と言って、食事準備を手伝わせていた。料理を横目に見ることも多く、ボクはいつしか料理のカンというものが身についているようだ。ありがとう、母。一人暮らしで開花した(と勝手に思っている)ボクの料理の腕は、当然、お菓子作りにも使われる。最初は母から習ったケーキ作りだったが、しかし母のレシピを使っても、母のケーキは作れない。匙加減、手加減、すべてが母のものだからだ。ボクには微妙なニュアンスをまねることが出来ない。だから、母のケーキは母のものだ。ボクはボクのケーキを作らなければならない。それでは、と、当時の恋人と、ケーキ作り体験教室に行くことにした。その最初のお店とは、イル・プルー・シュル・ラ・セーヌである。その恋人が探してきた店なのだが、実は日本一おいしい店だということを、あとで知ることになる。この店はフランス菓子店で、東京都の代官山にお店がある。お菓子教室もある。まえの職場がこのお店の近くにあったのは、奇異な巡り合わせか。ボクらは行くことになった。そこで、ボクらはまず、この店の主宰:弓田シェフのレシピに釘付けになる。細かいのだ。それだけで、ボクは弓田シェフがただ者ではない、と思えた。理系出身のボクが、長年モヤモヤと思っていたのは、本屋で見る料理レシピ本の、分量のなんとアバウトなことよ。だいたい、卵2個とかいう表記はひどい。今、スーパーマーケットでてにはいる卵の大きさは、S,M,Lで、しかも農場によってまた微妙な大きさのばらつきがある。それなのに、いっぱひとからげで「卵2個」というレシピ本は、もうそれだけで信頼度がない。それが、弓田シェフのレシピは細かい。分量は、卵でもグラム表記だ。しかも、温度まで指定するので、温度計が欠かせない。さらに、時間も細かく指定しているので、ストップウォッチも欠かせない。また、材料や道具にしても、メーカーや銘柄指定も多い。実際、使いやすい道具類には圧巻の思いだ。弓田シェフおすすめの道具を知ると、どうして今までこんなに使いにくい「一般市販品」を使っていたのか、と悔しい思いをすることになる。それにこだわるがために、東京恵比寿に製菓材料店エピスリーも開店している。そして、体験教室では氏自ら、細かく指導してくれたのだ。ボクは、彼の製菓に対する真摯かつ合理的な姿勢に、虜になった。全く科学的で、ボクが納得するのに十分だった。そのレシピと教室に用意された豊富な道具に、全面的に助けられたとはいえ、すばらしいケーキを作ることができた。忘れもしない、洋なしのシャルロット・ポワールである。そのお店に並んでいるものとほぼ同じレベルのものが。実際弓田シェフが、そう言っていた。科学的に作れば、店と同じ味になると。そんな彼の店を、紹介しようかどうか迷いつつ、イルプルのHPはこのブログのbookmarkに登録しておいた。きっとみつけている方もいると思う。ホラ、本当のおすすめって、誰にも教えたくないものでしょう。この店は、まさにそれ。今回、食べ物関係のブログを再開するに当たり、あえてあらためて、紹介したかった次第である。東京近郊に住んでいるならば、ぜひ一度行ってみて欲しい。ケーキに対する考え方が、食べるだけでわかります。しかも、何度食べても、飽きがこない。これが、すごいと思うのです。代官山店には喫茶コーナーもあるので、コミコミした代官山を散策したあとで、お茶するのもいいものです。ケーキの値段にびっくりすると思いますが、値段なりの味が、そこにありますので。街の洋菓子ではなく、正統フランス菓子というジャンル。その意味を知ることができるでしょう。P.S.後日談として、そのイルプルを教えてくれた恋人は、今、妻となっております。