デジカメの過当競争 その2
その1からのつづき。前機種(Panasonic Lumix DSC-FX9)と新機種(Pentax Optio T30)の比較レビュー。●画質明らかに違うのは、ホワイトバランス。どちらがいいとかではなく、チューニングの方向にメーカーとしての個性があり、好きか嫌いかのレベルである。ボクはPentaxのほうがより自然で、好きである。さらにいえば、FX9のオートは、シーンによって間違った設定が多く、破綻した色を記録するからガッカリ感が多かった。Pentaxは老舗カメラメーカーらしく、そういう破綻するガッカリ感がなく、落ち着いた色調と暗部の再現性が気に入った。あっさり白飛びするとのネット記事もあるが、ダイナミックレンジの狭さは、コンパクトデジカメのいまだ宿命でどのメーカーも似たり寄ったり。いまのところとりたてて気になるところではない。●本体比較買う前に手に取ってみたときには、気にならなかったが、置いてみると明らかに縦横の寸法は、FX9よりもT30のほうが大きい。しかし、T30のスクエアな形状と、薄さ、軽さから、ボクはT30の形状が好みだ。Lumixが重いのは、電池の大きさのせいもあるが、本体の厚みが重いと感じる。FX9ほどの厚みと重さがあると、手から滑り落ちやすい。そこは個人差があると思うけど、本当だ。●手ぶれ耐性FX9が採用しているpanasonicお得意の光学式手ぶれ補正機能は優秀で、被写体ブレに気をつければ、ブレ失敗写真が少なかった。対してT30には光学式手ぶれ補正機構がついていない。シーンによって自動で感度を上げ、高速シャッターにするタイプである。T30で暗い室内で何枚か撮ってみたが、光学式よりも決定的に劣っているとは、思わない。手ぶれとともに、動きの早い子供の被写体ブレを軽減するのに有効である。しかし高感度ノイズとのトレードオフ。総合画質を求める向きには向かない機能ではある。●本体操作性FX9は十字キー中心とした階層メニュー式であるのに対し、T30はタッチスクリーン式階層メニュー式である。T30のタッチスクリーンは思いのほか操作しやすく、しかも階層がわかりやすくて説明書なしでもたいてい設定でき、とても使いやすい。さらには本体ボタン数が少なく、スッキリとした外観になっている。「タッチスクリーン」がトレンドとなった1年以上前にPentaxがT30で実現していたことは、ちょっと興味深い。●画面FX9は2.5型 20.7万画素。T30は3.0型 23万画素。見た目は完全にT30の勝ち、特に色がきれいな液晶である。タッチスクリーンのため、画面に指紋の脂がつくのは仕方ないと諦める。傷防止にシートを貼るとタッチ感度が落ちるし、それに、タッチスクリーンが傷で一杯になるまえに別のところが壊れてしまうだろう。使い倒してこそのデジカメ、傷防止に気を遣うのは本末転倒と思う。●AFFX9では多点評価測距を使っていたが、評価間違いが多く、いまいち使いにくかった。T30には一日の長があって、測距枠追尾式AFがある。さすがに使いやすい。AF技術が実用レベルになったと思える。被写体を中央にフレーミング→半押しAFロック→再フレーミングの、ボクの昔からの撮影スタイルを、変えてしまうかもしれない。なお、顔認識AFは使ったことがないし、これからも使うことはないだろう。そこまで機械に任せるつもりはボクにはない。●撮像画素数FX9は600万画素、T30は710万画素。多少増えているが、ほとんどかわらない。そんな程度である。だったら、600万画素程度のままでいいので、高感度化、低ノイズ化を果たして欲しかった。技術トレンドとして高精細化に進んだことを恨めしく思う。必要のない高画素化にもうNOと言おうではないか。●動画解像度FX9もT30も、640×480画素で30コマ/秒。変わらないがレンズ手ぶれ補正のあるFX9のほうが画像安定はよいようだ。●SDHC対応FX9はSDのみ対応、T30はSDHC対応。動画を多用すると、SDの最大2GBは、物足りなくなった。SDHCの4GB以上が使えるのは便利である。SDHCが安くなってきた今、ちょっとオトク感あり。但し、大容量カードを使うと、デジカメは起動が遅くなる傾向があるのであまり大きな容量は使う気がない。T30がどうかは試していないが。●連写性能デジカメでは、とりあえず連写撮影しておいて、あとでベストショットを探し、残すという使い方ができる。あとでの選定に時間がかかるが、できあがる写真のレベルが上がるのだから、品のない撮影スタイルだとは思うが、有用というしかない。カメラ本体に大容量バッファーを持つことで高速連写が実現できるこの機能、FX9に一日の長あり。600万画素でもパサパサと連写できる。T30は連写がとても遅いので、撮影画素数を下げてなんとか連写するに至るも、FX9ほど速く撮れない。T30の連写性能レベルには不満である。Pentax共通の設計思想なのだろうか?●本体価格一番の驚きはここである。時の流れを感じる。FX9は購入当時のネット通販の最安値で、2.5万円。T30はアウトレットで1万円弱。実に半額である。機能や満足度がほぼ同じで、半額。あとはどれだけ長持ちするかどうか、で経済性が決まる。(ああ、もう落とさないようにしよう・・・)安いという理由のひとつに、先に書いたとおり今回のT30が発売後時間の経ったアウトレット品だからで、量販店にいくと、最新の売れ筋機種はやはり2.5万円程度である。これ以上安くすると採算があわないとメーカーは言うかもしれないが、それはメーカーの勝手な言い分である。ユーザーはもっと安価、少なくとも2万円切りのデジカメを望んでいるのだ。いまの開発ペースで作り続けるから採算があわないのであって、採算があうようにモデルライフを伸ばして売れる機種を作り、開発費の償却母数を多くして価格を下げることをしてほしい。十分な開発時間は機能を熟成させ、ユーザー満足度も上がるので長く売れるだろうし、ユーザーとしても歓迎である。ひとつの成功例がある。RICOHがGR1デジタルでやっている手法、1モデルで度重なるソフトウェアアップデートである。画質に関わるソフトウェア更新を手厚くし、更新プログラムを頻繁にweb公開し、簡単にダウンロード&インストールすることで、画質レベルがアップしたり機能がどんどんUPしていく。そうなれば、ユーザーは初期投資が多少高価格でも受け入れ、長く使って満足出来る機種を買っていくのではないか?メーカーには、ユーザーのそういう気持ちを理解して欲しい。アイディアとしては、更新対象ソフトウェアを、画像処理エンジンだけでなく、AFやAEの向上、季節ごとの最適なホワイトバランスなど、いろいろ提供すれば、なおよし。さらに外装のオプションとして、防水や防塵、耐衝撃、耐温度など、いろいろなプロテクターを用意すればいい。1モデルを長く多く売るなら、プロテクターの数も出る分だけ価格も下がるはずだ。そうやって、簡単に買える”1年使い捨て”のデジカメでなく、長く楽しめるデジカメを作ってほしい。それがメーカーの、商品ライフサイクルを長くすることによるエコロジー姿勢として見せて欲しい。そういう方向で”競争”して欲しい。新品時の見た目重視デザインで過当競争しているように思う。パッと見た目のデザインの奇抜さ、目新しさは、店頭で購買意欲を刺激するのは確かで、売り上げ最優先というメーカーの都合はわからんでもないが、どんぐりのせいくらべの「きれいデザイン」競争は不毛なのでいいかげんやめて欲しい。例えば、いまのコンパクトデジカメからメーカーロゴをなくしたら、もはやどこ製のカメラか、わからない。デザインにブランドアイデンティティが全くないのだ。いまのデジカメのデザインの不毛さは、そこまできている。古くからのカメラの流れを知っているボクでさえ、ロゴなしでメーカーを言い当てられる自信があるのは、キヤノンIXYとSANYOザクティくらいだ。あとはどれも同じようなデジカメデザインで、何の特徴もない。そして、そんなユーザー不在のデザイン競争が収まらない。そろそろ、メーカーは、気持ちよく長く使いたいユーザーの気持ちを考えて設計して欲しいものだ。デジカメ市場が、もっとオトナになってほしいと願っている。せっかく買ったT30を落とさないように気にしつつ。