サッカークリニッキ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　SOCCER CLINIKKI

「クリ、2試合目の最後の5分の動きは、どうした？」
「え、なんで？」
「キレキレだったじゃん。」
「うん。」
「ボール取るとき、抜かれてもあきらめないで反応良くて、しつこかったし、
抜きに失敗した後のチェイスもできてた。
特に、あのアシストは、良かった。
相手のパスを読んで、１０ｍぐらい走ってインターセプトしたろ？」
「うん。」
「その後、2人抜いた。2人目のスライディングをジャンプでかわして、
すぐ3人目を引きつけながら、ノールックで出した右アウトのタテのスルーパスは、
監督が“おー、いーボールだ！！”って思わず叫んでた。」
「ふーん。」
「どーしちゃったの？」
「なんでよ。いつもと同じじゃん。」
「それまで、やってもやってもボールを敵に引っかけたりしてたじゃん。」
「そーお？」
「そー。ま、けど、あの5分間はすごかった。あの5分だけ、別人。
前に行く姿勢が出たドリブルやった。できるじゃん。あの感触忘れんな。
あの5分の動きが40分できれば、誰にも負けん。このあと練習するか？」
「うん。」

「今日、監督にも言われたドリブルのときに後ろに下がってしまうことがあるのを直そ。」
「どういうこと？」
「ドリブルをスタートして、1人目、2人目のまでは、アグレッシブだけど、
3人目ぐらいでフッと抜けるその時、後ろに体重かかって体が後ろに反って、
腰が引けた感じになる。引き技が多くなったり、後ろ向いてしまったり。」
「“あぐれっしぶ”ってなに？」
「前に前に行く姿勢だ。積極的ってことやな。
2、3人抜くとホッとするのか、疲れるのか、集中が切れるみたいに、弱くなる。
体が反ると、ボールコントロールが難しくなるし、相手にボールが晒されるから、取られやすい。」
「ふん。」
「ボール晒して誘ってもいいが、うまくて速い相手には簡単に取られてしまうぞ。
腰が引けてりゃなおさらだ。」
「ふん。」
「前傾して行け。突破、突破、突破！ってシュートまで、最後まで抜き切るようにならなきゃな。」
「はい。」

「ボールを運ぶ時は、タテでもヨコに行くときでも、
上体を少し前傾させて、上にある頭がボールの前に出ている感じの方がいい。」
「ふーん。」
「ボールが、足元にあって、上体がややカブってる体勢だと、
体の奥にボールがある感じで、敵が踏み込みづらい。懐が深いっていう奴だ。フィーゴみたいに。」
「ふん。」
「それと、上体が前傾してるってことは、スピードに乗りやすい。急加速もしやすいな。」
「走るのと一緒だね。」
「そや。前に行くときは、前に重心があるほうが速い。」
「ふん。」
「けど、腰が曲がって、猫背になると、周りが見えなくなるから気をつけろ。
下を向いてもいいが、下ばかりじゃなくて周りが見えてないとダメね。」
「ふぁーい。」

「おまえ、チビなんだから、インのドラッグもアウトで出すときも、引き技ももっと大きく動かせ。
自分が思っているよりも大きく動かさなきゃ、相手の足が届いてくるぞ。」
「うん。」
「ヨコからタテに急加速するときは、速く、大きく出せ。
前傾。下を見過ぎてると上体が前に出て行けない。顔を上げて前に出す。
背筋は伸びてなきゃいけない。背中丸いとカッコ悪かぜ。モテないぞ。」
「はい。」

「それじゃあ、相手に捉まる。
ドリブルでかわす場面は、2種類ある。
ひとつは、相手との距離やスペースがあるとき。中央突破するときなんかだな。
仕掛けを早くして、間合いが詰まる直前にスピードに乗って突破して行く。
サイドでタッチラインを背負っているときとか、相手が何人かいる密集地域じゃ、それができん。
そのときは、引き技、フェイント、スピード変化を使う。
横に大きく動かしたり、ボールタッチを多くしてフェイントや変化を連続させなきゃいけない。」
「ふん。」
「意識してなきゃいけないのは、パスだ。
受ける前から、周りを見て味方の動きを頭に入れてなきゃいけない。
敵のプレスがキツけりゃ、ボールコントロールに集中してしまうから、
ドリブルしながら味方を見る暇がなかなかない。
下を向きながらでも、ある程度、パスコースを意識してなきゃダメやで。」
「ふん。」
「詰まったときには、強引突破もあり。パスもあり。
パスもできれば、相手も警戒してしまうから、相手の頭が忙しくなる。
ドリブルしかないと対応しやすい。パスもあると思ったら、考えちゃうだろ。
時にはパスも見せておくと、相手の集中力も回りに分散するから、ドリブル突破もしやすくなる。
後ろに落とす、横にパス、股抜きパス。けどやっぱり、相手にとって怖いのは、
今日のアシストのようにゴールに向かっていくタテパスだからな。いつも狙ってなきゃダメよ。」
「うん。股抜きも得意だよ。」
「まだまだや。」
「おとーさんなら、簡単だもんね。1対１やろ。」
「その前に、ダッシュやる。」
「疲れさせようとしてるでしょ？」
「何や、その目は？」
「ダッシュ何本？」
「疲れるまで。」
「もう疲れてるよ。」
「じゃあ、もう少し・・・。」
「やっぱ。そーじゃん。」
「あほ。この前からやってる前傾ダッシュは、なかなかいいだろ？どんどん速くなる。」
「けどねえ、前傾ダッシュにしてから、あんまり、疲れないもんね。」
「そーやろ。100本ぐらいやるか？前にも横にも後ろにもダッシュやで。」
「死ぬよ。」
「背中伸ばして、後ろの足を速く前に出す。
前傾ダッシュ、前傾ドリブル、アグレッシブに行くには、前傾忘れんな。」
「“あぐれっしぶ”ってなんだっけ？」
「アンパンのともだちじゃ。」
「うーそ。」