|
カテゴリ:教授の読書日記
Matt Novak という人の書いた「All American Huckster」なる長文記事を読みましたので、心覚えをつけておきましょう。
これ、『思考は現実化する』の著者として名高いナポレオン・ヒルの実像に迫る暴露記事なんですけど、これを読むと、まあ、ヒルという人が正真正銘の詐欺師だったということがよくわかります。 といっても、それは彼がどうしようもないワルだった、という意味ではないのね。ヒルはヒルなりに理想があり、やりたいことがある。本も書きたいし、自己啓発的な学校も作りたい。囚人の矯正施設も作りたい。だけど、もちろん自分にはお金がないから、人から借りるなりしなくちゃならない。で、お金持ちの女性と結婚したりして、その実家からお金を借り、事業を展開するのだけど、もちろん失敗して夜逃げするはめになると。 彼の伝記を読んでいると、旅から旅への股旅人生なんですけど、それは要するに騙して金をせびった相手や、借金取りから逃げ回るためだったんですな。むしろ、よく警察に捕まらなかったなと、そのことに感心するほど。 でも、講演者としての才能はあったようで、人をその気にさせるのは巧かったらしい。だから、詐欺師なんですけど。 で、そういう旅回りの講演者だったからこそ、平気で嘘をつく。自分はウッドロー・ウィルソン大統領やフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領の補佐官だったとか、鉄鋼王アンドリュー・カーネギーに頼まれて成功哲学を研究したとか。カーネギーの紹介で自動車王のフォードに会ったけど、案外、ぱっとしない奴だったとか。そういうことを口から出任せに言っちゃうわけよ。で、何度も何度もそういうはったりをかましているうちに、自分でもそれを信じ始めたんじゃないですかね。 ヒルが「実際に会った」と吹聴している有名人の中で、唯一、本当に会ったことがあるのは発明王エジソンなんですけど(これは二人並んだ写真が残っている)、それもエジソン主催のコンヴェンションに潜り込み、どうにか写真を撮ってもらったらしいんですな。それで後から、エジソンの業績を顕彰するメダルかなにかを自作して彼に送ったところ、無言で突き返されたらしい。 あと、ヒルはガンジーと親しかったということになっていて、ガンジーがヒルの著作の大ファンで、その人物を確かめるために探偵を雇った、とか吹聴しているのだけれど、これも実際には大嘘みたい。 ただ、『思考は現実化する』だけは、唯一、スマッシュ・ヒットであったと。 だけど、これも実は、この当時、ヒルの奥さんだった(自伝によるとヒルは3回結婚していることになっているけれども、マット・ノヴァクの知る限り5回結婚していたらしい)ローザ・リーによる編集が良かったらしいんですな。 で、とにかくこの本は売れに売れた。1937年というと、まだ不況を脱しきっていなかった時期ではありますが、当時のアメリカ人としては、景気のいい話が読みたかったと。だから、「こうすれば金持ちになれる」というのは、福音として響いたわけですな。 それから、これはヒルの自己啓発本の大きな特徴の一つなんですけど、彼によると、巨富を築くための原動力は「信念」と「愛」と「性衝動」だということになっていて、敢えて[性衝動」を積極的に肯定しているわけ。そこが、一般には受けた(=読みたいと思わせた)のだろうと。 しかし、ここにまた落とし穴がありまして。 というのも、ヒルは、この本がめちゃくちゃに売れたもので、莫大な印税を手にしたのですが、その印税を、前の奥さんであるフローレンスに取られたくなかったものだから、印税が自分ではなくローザ・リーの方に行くことにしておいたんですな。そしたら、それをいいことに、ローザ・リーにみんな持ってかれちゃったと。 でまたこのローザ・リーというのがヒル以上の性悪で、自ら、金目当てにヒルと結婚したことを公言し、金持ちの男と結婚する方法『How to Attract Men and Money』という本まで出版する始末(この本にはまだリーと離婚する前のヒルも寄稿していて、現代女性が金のために結婚することはぜーんぜん悪いことじゃない、それは一つのビジネスだ、みたいなことを書いているらしい)。 というわけで、ヒルは生涯で唯一まともに稼いだものと言える『思考は現実化する』の印税の恩恵をほとんど受けていないという。 で、結局、生涯、ろくなことをしていないヒルが、それでも晩年を平穏に(実際には平穏でもないのだけど)過ごせたのは、W・クレメント・ストーンという、保険会社のオーナーで大金持ちの人がヒルのファンだったから。『思考は現実化する』に触発されて成功したストーンは、一時、ヒルを神と崇めていて、落ちぶれかけていたヒルを救い上げたわけね。 もっとも、ストーンはストーンで、ヒルと共著という形で自己啓発本を書いたりして、自分の名前をあげるのにヒルを利用した側面もないわけじゃないのだけど、とにかく、ストーンのような大金持ちがサポートしたからこそ、晩年のヒルがあったと。 だけど、そうなるとまたヒルの詐欺師魂が頭をもたげて来て、またぞろ色々な事業を興そうとするものだから、ストーンも音を上げてヒルから離れてしまうのですけれども。 でも、まあ、1963年に「ナポレオン・ヒル財団」を立ち上げたのが功を奏し、ここがヒルの著作物を、手を換え品を換えながら、やたらに再刊するもので、なんとかヒルの自己啓発ライターとしての名声は保たれているんですな。『悪魔を出し抜け』なんて本は、この財団が昔のヒルの著作をテキトーに編集して作ったみたいだし。(この本もそうらしいですが、ヒルの昔の本の中には、かなりスピリチュアルなものもあるらしい。まあ、詐欺師ですからね。) とまあ、そんなヒルのインチキ臭い人生が、この長文記事の中で手際よく再現されております。もちろん、この記事自体の信憑性はどうなんだ、と言われると、研究書と違っていちいち注がついているわけでもなく、確認が出来ないのでなんとも言えませんが、多分、そんなに間違ってはいないのではないかと。少なくとも、ヒルの公式な伝記よりは、信用できそうな感じ。勘だけど。 というわけで、ヒルの公式じゃない伝記が存在しない以上、このネット上の長文記事は、ヒルの実像に迫るためには、必読の文献と言えるのではないでしょうか。 これこれ! ↓ ナポレオン・ヒルの実像 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 10, 2017 02:05:22 PM
コメント(0) | コメントを書く
[教授の読書日記] カテゴリの最新記事
|
|