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カテゴリ:きらきらポストモダン推理
リアルなのにどこかずれている世界を描く三崎亜記の長編小説を読んだ。
〇ストーリー 都会のブラック企業で疲弊し,喜びながら働ける場所を求めて出身の町の工場に戻って来た青年。地元出身者として初めて高度な技術職に選ばれた青年。高い技能を持ちつつも,プライドの高さから工場の中で浮いていた中年男・・・町の誇りである工場に勤務していた彼らは,徐々にその欺瞞に気付き始める。彼らの工場への依存は一気に破壊的な感情へと変換される。その時,町と工場は? ---------- 三崎亜記作品の魅力は,とてつもなく平凡な日常のすぐ隣にファンタジーが描かれていることだろう。 「小学生が夏休みに行った場所で」「転校してきたのは」などの日常ファンタジーは多いが,大人になると驚くほど毎日に変化がないので,こうしたきっかけでさえ存在しない。 三崎亜記の作品では,こうしたきっかけさえも必要なく,日常から異世界までは巧みにすっと移行する。平凡なサラリーマンが,出張先で,回覧板を見て,そこから違和感なくあちらへと移行する。 まだぎこちない部分も残っているが,僕らが三崎亜記に惹きつけられるのは,大人の読者が「ひょっとしたら自分も?」と考えてしまうような,異世界移行へのハードルの低さが描かれているからではないだろうか? ---------- そうしたいつもの”三崎亜記的な小品”を想定していたが,今回の作品には驚いてしまった。 なんとある町が,まるごと1つの会社の工場の城下町となってしまって,会社のルールが町を支配しているという大掛かりな設定となっている。 これはまるでシ〇ープ,T〇shib〇の工場があった町や,原子力発電所が建設された町のようだ。現実世界への風刺,社会批判のカラーを感じてしまって,どうしても小説としては楽しめなかった。 いろんな部分では魅力的な要素があったのに,残念だ。 ---------- 複数の人物の視点で物語は描かれる。彼らは町を支配している工場に勤務している人々で,それぞれのきっかけと理由で,工場のウソに気付く。 三崎亜記作品の登場人物の面白さは,工場に対し反発し破壊する気持ちを抱きつつも,まだ工場への愛着を登場人物たちが持っていることだ。それにより彼らの行動は複雑で,先が読めないものになる。 日本人らしいリアルで魅力的なのだが,この作品ではそれが幾重にも重なり過ぎていて,ストーリーラインをぼやかし過ぎているのが欠点だ。 ---------- 原発事故そっくりの,町を揺るがした騒動は何だったのか?主人公たちは何を達成したのか? それをあいまいにしたまま,オープンエンドで終わるのは,大風呂敷を広げてまとめきれなくなって,放り投げてしまったという印象だ。 やはり三崎亜記は小品でこっそりと勝負してもらいたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.04.20 22:00:09
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