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カテゴリ:きらきらポストモダン推理
木下半太お得意のジェットコースターサスペンスを読んだ。
〇ストーリー 居酒屋の40代女性店長と女子大生アルバイトの女子大生は,閉店後の店の業務用冷蔵庫に閉じ込められ,温度を下げられ続ける。その悪意に満ちた行動を行っているのは誰なのかを探るために,2人の女性は自分たちの罪を語り始める。だが,互いに人を騙そうとしていた2人は,それを超えた悪意が今回の計画の背景にあることを知る。無事に翌朝を迎えるのは誰なのか? ---------- 限定された状況から,意外性に満ち満ちた驚きの展開を見せるのが木下半太の真骨頂だ。 今回の作品はデビュー作「悪夢のエレベーター」に戻ったようだった。狭い空間の中に閉じ込められた主人公たちが始める,徐々にずれていく人間模様が面白い。読んでいてひじょうにワクワクさせられた。 純ブンガクはもちろん,ミステリーやSFでさえ,”人間を描く”ことに苦心していて,ストーリーテリングの面白さが忘れかけている。そんな時代だからこそ,木下半太の強引なホラ話が実に爽快だ。 ---------- 今回の作品では,閉じ込められた2人の女性の視点で物語が語られる。表面上は同じ居酒屋の店長とアルバイトという関係の2人だが,裏では同じ男性をめぐって三角関係にあり,さらには・・・と次々に新しい事実が明かされ続ける。 だが,登場人物の少なさなのか,キャラ設定がありきたりなのか,店の冷蔵庫という平凡な状況がいけないのか,物語の広がりが少なくて,木下半太の一番の持ち味である意外な展開が,ほとんど感じられなかった。 登場人物たちが,それぞれ予想外の面を見せるのは,この作者としては当然の展開なのだが,職場での顔Aから,プライベートでの顔Bが見え,さらに1人の時の顔Cが見え,という程度では,ひじょうに勝手ながらファンはもう満足出来ない。 まして1人の時の顔Cがフツーだったりすると,「何言ってんの,ホントはもっと腹黒いでしょ??」と疑ってしまう。 本当に歪んでいるのは読んでいるこちらなのだけどね。 ---------- "chapter three"の終盤で,彼女たちを閉じ込めていた犯人の姿が見え,別の事件も見え始める。そこは一瞬サスペンス的に盛り上がる。 この作品の欠点は,終盤に木下半太作品としては定石通りのどんでん返しが待ち構えているものの,それが物語の時間軸のライブではなく,エピローグの中なので,緊張感が途切れている状況だということだろう。 あまり作者自身でハードルを高くしないで,新しい展開を必死に探さずとも,これまでの作品で十分培われたテクニックでサスペンス作品であれば十分に成立すると思った。 無理筋な展開よりも,定石通りの流れが良いと思う。 ---------- 久々の木下半太作品だったが,残念ながら不完全燃焼で終わってしまった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.05.18 21:23:34
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