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カテゴリ:きらきらポストモダン推理
ちょっとそこの異世界を描く作家・三崎亜記の連作短編集を読んだ。
〇ストーリー 〈チェーン・ピープル〉は〈チェーン・ストア〉のように,会員に対し理想的な〈平田昌三〉という人物像を提供する。大人しいけれども,しっかりしている〈平田昌三〉は全国に300人おり,定期的に「らしさ」について,見直しを行う。そんな中で・・・ ----------- 三崎亜記という作家がどれくらい認知されているかどうかは知らないが,僕は出版された作品を全部読んでいる。 純ブンガクとファンタジーの中間という微妙な位置でデビューして,いまだに位置はそのままという印象だ。もっとメジャーになってくれれば,と思った時期もあったが,今ではそのブレない立ち位置が貴重だと思うようになっている。 ----------- 今回の作品は,6人の人物に関するレポートという体裁をとっている。架空レポートというフォーマットは「玉磨き」に少し似ている。だがあちらが描いていた対象は(仮想的な)伝統技能だったのに対し,今回の対象は現代社会の中で取り残されている(仮想的な)人々ということで,やや作品世界の空気が異なっていた。 今回の作品の特徴は,〈仮想的〉な状況を,現代の一般的なマスコミのように分析して見せるというものだ。そのため,雑誌や新聞記事のレポート風の表現の一環として,最近現実の社会で起きた事件に呼応したことが語られていて,現実と〈仮想〉の境界をあいまいにするにはひじょうに役立っていた。 一方で,三崎亜記作品の魅力として,ファンタジックな世界にあっても,結局人間は孤独に生きていくしかない,という諦念がある。現実のレポートに寄せた作風の影響で,どうしても文章が社会派っぽくなっていて,そこから外れた人々を淡々と描写するあの空気は失われていて残念だった。 この連作短編集を書いているという設定の,レポーターの視点がやや上からなのが,これまでの作風と合っていないのかも知れない。 もっと良い作品が書けると思う。 ----------- 各編について,簡単に感想を述べる。 「正義の味方」:定期的に現れて,地上に災害をもたらし,去っていく巨大な〈敵性生物〉。それを倒してくれる〈彼〉が登場し,人々は戸惑いつつも〈彼〉を応援し始める。だが〈敵〉も〈彼〉も当たり前となった時,〈彼〉の戦い方は激しく批判されるようになった。そして・・・実に残念な短編で,もし映画『シン・ゴジラ』が公開される前だったら,もっとこの視点が輝いて見えたに違いない。人物レポートと言いつつ,いきなりウル〇ラマンを対象にしているのには驚いた。〈彼〉の立像がいたずらされて,銀色と赤に塗られる,という流れには,特撮ファンとしてはじーんと来た。 「似叙伝」:〈私〉が会いに行った高仲は,依頼者の要望にあったフィクショナルな自叙伝,つまり〈似叙伝〉を出版する事務所を経営していた。だが彼の依頼者が〈似叙伝〉の内容でマスコミにもてはやされたことにより,高仲の仕事までが批判されるようになってしまう。だが・・・三崎亜記の作品にしては珍しく,悪役キャラの登場だ。〈自叙伝〉の意義だけでなく,そもそも自分が認識している半生の記憶についてまでも,その確かさをついてくる。ストーリーはなかなかひねってあって楽しめた。 「チェーン・ピープル」:〈平田昌三〉という大人しいけれども,しっかりした人物に成り切ってみせるのが〈チェーン・ピープル〉たち,300人だ。彼らは全国に点在し,24時間〈平田昌三〉を演じ続ける。だが,その中にも様々な人がいて・・・表題作だけに,ひじょうに普遍的なテーマを語っていると思った。果たして僕らの言動は,本当の僕らのモノだろうか?〈平田昌三〉を批判するのは簡単だが,社会に合わせて行動している僕らは,自分の素の部分を何パーセントくらい,表に出しているのだろうか?いろいろ考えてしまった。 「ナナツコク」:〈私〉が出会った女性は,幼少の頃より母親の手によって,口伝により〈ナナツコク〉の地図と歴史を叩き込まれていた。だが彼女の元に,〈ナナツコク〉の国難が伝えられ,そしてそこからの亡命者を語る男が現れる。彼女が取った行動は?・・・この作品の1編であることは間違いないのだが,よりいつもの三崎亜記作品の空気に近くて,少しホッとした。 「ぬまっチ」:沼取市の非公認ゆるキャラ〈ぬまっチ〉は,毒舌を吐く,着ぐるみを着ない中年男性だった。だが,その裏では?・・・完全に〈ふなっしー〉を意識した設定となっている。ただし,〈ぬまっチ〉の見た目はやる気のない中年男性ということなので,いくら日本でもゆるキャラの人気と,お笑い芸人の人気は別物だと思う。最後の陰謀論は,面白いけれど,短編集の空気と合っていない気がした。 「応援」:鮮烈なデビューを飾った若手俳優・奥村達也。だが彼のドラマもCMも,大きな反響となり過ぎる。そのため,ついには奥村は俳優を引退することになり,後輩を育成するためにマネージャーとなる。だが,そこにも・・・ネットによる監視や炎上の恐ろしさを語っているが,ちょっと今さら感があるのは否めない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.10.16 22:43:55
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