|
カテゴリ:きらきらポストモダン推理
北森鴻の連作短編歴史ミステリーを読んだ。
〇ストーリー ----------- なかなかにサービス精神の高い連作短編集だ。 まずは短編タイトルが有名ミステリー作品のもじりで,明らかにファンを意識している。次に,主人公の青年・冬馬が,実在の明治の政府雇用の外国人技術者・研究者と次々に出会っていくという歴史のifの魅力がある。そして当然毎回起きる事件の謎解きがある。さらに連作短編としての裏に流れる共通テーマがある。 最初は〈連鎖式ミステリー〉の作家として北森鴻を知り,その後にそれ以外の作品の奥深さの魅力を教えてもらい読み連ねている。 この作品は,懐かしい〈連鎖式〉と,北森鴻が得意とする近代史を掛け合わせた,なかなか僕好みのジャンルだ。 ----------- 作品のタッチはコミカルで,主人公が師事する東京大學医学部教授のベルツ,主人公の相棒として事件を捜査する市川歌之丞,そして多くの実在の外国人先生たちもひじょうに型破りなキャラクターとして描かれている。 主人公・冬馬は,様々な理由で事件に巻き込まれ,ベルツたちの支援,そして市川歌之丞の協力もあり,事件を解決する。 北森鴻ファンには怒られるかも知れないが,この作品に関しては,様々な”縛り”ルールを作者自身が設定し,やや強引なミステリーが展開するライトミステリーということで,鯨統一郎の作品に近い雰囲気を感じた。 どうやら次巻を予定していたらしいのが,なんとも侘しい気持ちになる。北森鴻,もっと活躍してもらいたかった。 ----------- 各編について簡単に感想を述べる。 「なぜ絵版師に頼まなかったのか」:松山から上京した13才の葛城冬馬は,東京大學のベルツ教授に住み込みの給仕として雇われる。だがまだその生活に慣れないうちに,外国船水夫の連続死傷事件の調査を命じられる。横浜へ出向いた冬馬は,怪しげな記者・市川歌之丞と共に捜査を始め,ある写真館がその死傷事件に関係していることを突き止める。だがその事件の裏には・・・シリーズ最初の短編ということで,まだまだしっくり来ていない中で事件が起きるが,市川歌之丞という狂言回しの登場で,不慣れな冬馬の捜査が成功する。ちょっと構成が荒い気もしたが剛腕でまとめてあった。(ナウマン先生登場) 「九枚目は多すぎる」:上京して3年経ち,冬馬はベルツ先生の指示で東京大學予備門へ通う書生となっていた。そんな中,骨董商となっていた市川歌之丞が殺人で疑われることとなり,彼の容疑を晴らすために,冬馬は捜査に乗り出す。・・・読み物としてはキャラが活き活きとしていて楽しいのだが,ミステリーとしてはかなり厳しい。犯人が目指していることが遠回り過ぎてなあ。(モース先生・ワグネル先生・フェノロサ先生登場) 「人形はなぜ生かされる」:東京大學医学部に進んだ冬馬は,帝都で話題となってる超絶技巧の活き人形を観に行き,その出来栄えに圧倒される。その頃,ベルツ先生は京都へと赴き,とある重要人物の治療をしていた。そして帝都では,夜中に市中に繰り出し,人々を惑わす活き人形の噂が流れる。それらがつながる先には?・・・急にホラーテイストになり,謎の彫刻師・れおな堂も登場する。だがそれよりも,これまで背景であった,明治に影を落とす社会の歪みが前面に出始める。(スクリバ先生登場) 「紅葉夢」:医学部助手となった冬馬は,市川歌之丞に誘われて大流行の会員制料亭・紅葉館に出かける。そこでは華やかな世界と共に,権力と金に振り回せる女性たちの姿があった。そこで起きた芸妓の殺人事件を解決するために,冬馬と歌之丞は奔走するが?・・・紅葉館は実在し,鹿鳴館よりも人気だったという。勉強になる。鹿鳴館は上品な世界だったようだが,紅葉館は日本の伝統的な料亭として芸者遊びが出来たようで,それゆえに悲劇が起きてしまう。また,ベルツ先生もなぜかここにある人物の治療のために通っていて,とますます連作設定が表に出てくる。(ボアソナード先生登場) 「執事たちの沈黙」:ベルツの研究室の近くの寄宿舎が火災で焼け落ち,その跡から他殺死体が発見された。20代となった冬馬は,遺体解剖に助手として立ち合い,さらにこの人物が殺された理由を調べるように言いつけられる。そこから見えてきたこととは?・・・最後の短編なのに残念ながらミステリーとしてはスッキリしないまま終わる。めきめきと頭角を現す冬馬に,読者としては戸惑ってしまう。このキャラクター設定は必要なのだろうか?北森鴻が他の作品でも気にしていた井上馨の暗躍が再び語られ,次の巻へと続くとされているのに,作者の死去によりそれは叶わない。実に残念だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.11.06 22:13:27
コメント(0) | コメントを書く
[きらきらポストモダン推理] カテゴリの最新記事
|