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カテゴリ:きらきらポストモダン推理
冷徹な女性・碓氷優佳が探偵を務める石持浅海のミステリーを読んだ。
〇ストーリー 武田小春は私立の女子中学校・高校を卒業した。その同窓生とも会い続けているが,大学受験のために通った予備校の同期の一部とも会っていた。その同期の1人・湯村が,ロボット運用事業で権威がある賞を受賞したことで,それを祝うために一泊の旅行が企画される。30代半ばとなった彼らは,様々なことを話し合う。そんな中,突然1人の参加者が凶行に及ぶ。被害者が病院に,加害者が警察へと運ばれた後,事件の真相を探る戦いが始まる。 ーーーーーーーーーーー 碓氷優佳を探偵とした作品は「扉は閉ざされたまま」「君の望む死に方」「彼女が追ってくる」があり,それぞれ犯人の視点から描かれた”倒叙式ミステリー”と呼ばれる形式だ。 たった一言や,ほんの小さな出来事から,「だから〇〇が真実だ」と強引に結論付ける流れは目立つが,これは石持浅海作品の共通した展開なので,もう驚かない。それよりも特徴的なのが,探偵・碓氷優佳がブルドーザーのように,『ターミネーター』のように,少しもぶれずに犯人を追い詰める姿だ。 ミステリーは謎解きというロジカルな要素を持つ小説だが,それだけでは”人間が描けていない”とダメ出しをされることが多い。そのため必要以上に情念や愛憎が描かれることもある。 石持浅海作品の登場人物は,往々にして人間らしさが欠けているのだが,探偵・碓氷優佳の冷徹っぷりは群を抜いている。何しろ犯人を追い詰めるのは,被害者を救うためでも,犯人を断罪するためでもなく,「納得したい」「早く状況を片付けたい」など,毎回自分のためなのだ。 まあ,とにかく嫌な人物なのだ。 ーーーーーーーーーーー シリーズ第4作は過去編かつ連作短編集の「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」で,番外編と呼ばれることがある。 上杉小春の視点で,高校から編入をしてきた碓氷優佳の姿が,女子校の日常ミステリーを通して描かれる。 この作品が面白いのは,碓氷優佳のブラックさが意識的に描かれていることだ。石持浅海が自分の作風を認識していた,ということに驚かされた作品だ。 ーーーーーーーーーーー そしてこの第5作は,長編形式で碓氷優佳が犯人を追い詰める,という流れは最初の3作品と同等だ。ただし,語り手は旧姓上田の武田小春だし,冒頭の披露宴のシーンでは「わたしたちが・・・」の登場人物が勢ぞろいするので,この番外編も読んでおく必要がある。 武田小春と碓氷優佳の関係の変化も,「わたしたちが・・・」を先に読んでおかないと面白みが感じられないだろう。 ーーーーーーーーーーー シリーズとしての面白さは,間に番外編を挟んだことで増しているのだが,ミステリーとしてはどうしてもスケールが小さい。 なにしろ加害者は全員の目の前で被害者を傷付けており,警察と医者が事件の事実の部分は処理をしている。残された同期生たちが話し合うのは,「どうしてこんなことが起きたか」というポイントが中心になる。 どうしても人間の心の中という目に見えない部分を論じるので,いろいろと説明がされたところで誰もが納得する結論が出るワケがない。 碓氷優佳とある人物の心理戦はつまらなくは無かったが,正直そこまで巧くいかないだろう,という感想だ。 ーーーーーーーーーーー シリーズとして作風の幅が増えているのは良いと思った。 いつもの石持浅海だけれど。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.04.29 16:44:53
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