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カテゴリ:きらきらポストモダン推理
鯨統一郎の〈桜川東子シリーズ〉の7冊目を読んだ。 ○ストーリー 軽井沢の別荘でかつてのバイト仲間が集まって泊まりがけの飲み会となった。だがそこで殺人事件が発生する。彼らの中では,数年前に仲間の自殺事件も起きていた。果たして今回の事件,そして過去の様々な事件の関連と真相は? --------- 鯨統一郎の多数の作品の中で,一番小説として安定したレベルを保っているのが,この〈桜川東子シリーズ〉だと思っている。 バー〈森へ抜ける道〉という限定空間で終始する安楽探偵ミステリーとしての骨子の上に,シリーズごとのテーマが語られ,お酒のウンチクが語られ,たぶんに脱線気味に”歌謡””映画””ドラマ”などの昭和マニアックネタが語られる。 様式美までは言い過ぎだと思うが,1つのシリーズに多めのお約束を盛り込んだことで,回り道を含めてそうしたネタの数々が語られないと読者が満足できない,という不思議な状況が生まれている。 もし大量の回り道が,最後にぴしっと1つの方向性を見せ,それがミステリープロットとつながっていれば素晴らしいのだけれど,まあそれはない。 --------- 今回の作品テーマは映画だが,これまでのグリム童話,ギリシャ神話などと比べると,どうしても漠然としている。 いきおい,結局テーマとミステリーのつながりは弱く,作品テーマとお約束の雑談との差がなくなってしまっているのは,この作品の欠点だと思う。 もっと〇〇映画として,ジャンルを絞り込むべきだったと思う。 --------- 驚いたことに,シリーズ作品として驚きの変更が行われている。なんでそんなに大ナタを振るったのかは理解できない。 そんなことをしなくてもシリーズは安定的に存続できたはずだ。 --------- 各編について簡単に感想を述べる。 「帝国のゴジラ」:会社の社長が役員と一緒に泊まった際に死亡した。社長が追い出した創業者の息子派閥の軋轢があり,捜査は難航する。バーでは〈ゴジラ〉と〈スターウォーズ〉で盛り上がる。・・・鯨統一郎を全作読んでいるファンだが,正直この短編の読みにくさはひどかった。短編集の最初に持ってくるレベルではない。起きている事件がちらちら紹介されるのだけれど,そこになかなかたどり着かないし,その後も情報の開示が小出しだ。10段階評価で低い方の1とか2じゃないかな。
「崖の上のファンタジア」:軽井沢の別荘でかつてのバイト仲間が集まり,そこで自殺が起きる。だが,数年前にも事故は起きていて・・・映画ネタは〈ジブリ〉と〈ディズニー〉だ。ミステリーとしては設定に無理を感じるけれども,及第点だと思う。このシリーズ好きだし。 「スパイはつらいよ」:ある人物が上映中のスクリーンに飛び込んで消え,その後別の場所で墜落死体で発見された。この不可能トリックを解いた先に見えて来るものとは?・・・え?というのが驚き。確かにシリーズとしてマンネリとはなっていたが,それがまたこのシリーズの魅力だったのではないだろうか?それをこんな小さな悪党のために崩してしまうのは納得できない。マンネリけっこう,マンネリに戻せ! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019.04.25 22:56:27
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