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カテゴリ:きらきらポストモダン推理
2つの中編が収録されている伊坂幸太郎の作品を読んだ。
「シーソーモンスター」 〇ストーリー 製薬会社の営業・北山は,妻・宮子と母・セツの3人暮らしだ。世の中はバブル景気で,北山は医者相手への過剰な接待で披露していた。その上,家に帰れば嫁姑の間に板挟みとなり,心が休まる時が無かった。北山はある医院の不正に気付いたことで拉致されてしまう。彼を救いに来たのは意外な2人組だった・・・ ーーーーーーーーーーー 主人公・北山は,お人好しで平凡だが,きちんと正義感のある人物で好感が持てる。妻・宮子は舅とは上手くやっていたが,どうしても姑のセツとは馬が合わない。 そんな中,何回か身に危険を感じた宮子は,セツの過去を調べ始める。ひょっとしたらセツは保険金目当ての連続殺人犯なのでは?その疑惑から行き着いた先とは?! ーーーーーーーーーーー 主人公補正が強い凡人の北山が,最後まで元通りの人物のままラストを迎えられるのが良い。そして嫁姑問題も解決をしないというのがリアルで面白い。 ただ北山は凡人でも,毎回宮子の危機に毅然と立ち向かおうとする正義感は持っている。その心根の真っ直ぐさが運の良さとして戻って来たのだろう。 楽しい中編だった。 「スピンモンスター」 〇ストーリー デジタル化が進んだ近未来では,重要な情報はプロの〈配達人〉を介してアナログでやりとりをすることになっていた。そんな〈配達人〉の水戸が依頼された手紙を届けたのは,中尊寺という謎の男だった。だがそれがきっかけになって,中尊寺と水戸は警察から追われる身となってしまう。しかもその追っ手の中には・・・ ーーーーーーーーーーー 主人公・水戸は交通事故がきっかけで天涯孤独だ。だがその事故でもう1人の少年が同じような境遇になっていた。2人は出会う度に強く反発し合い,なるべくお互いを避けるのだが,どうしても再会してしまう。 〈配達人〉としての仕事の結果,水戸は警察から追われることになるのだが,警察の中に”もう1人の少年”・檜山が大人になった姿がある。 ーーーーーーーーーーー つらい過去がある水戸が主人公なので,前の中編ほど楽しい空気とはならない。伊坂幸太郎作品ではお馴染みの,主人公が逃亡者という設定のためでもある。 そんな空気を和らげてくれるのが中尊寺という水戸と一緒に逃亡をする男だ。これまでの伊坂作品で多く登場したワガママな先輩,というキャラなのだが,今回はだいぶ頼りになり,気づかいもしてくれる良い人だ。でも奔放さは相変わらずなので,物語と主人公をぐいぐちと引っ張ってくれる。 ーーーーーーーーーーー この中編のテーマは「モダンタイムス」によく似ている。ネットへの常時接続が当たり前になった社会で,情報の統制は簡単に出来てしまうし,2人の人物,2つの地域,2つの国を争わせるのはあっと言う間だ。 そこから先に,どうすればそれを回避できるか,ということが今回のテーマだろう。重めのラストとなってしまったが,個人的には良いまとめ方だと思った。 ーーーーーーーーーーー どちらの中編も,別々の伊坂幸太郎らしさが出ていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019.10.06 14:29:31
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